あるIR担当者の雑感(27)~ 説明会のパーセプション
決算説明会に出席していただいたアナリストやファンドマネージャーの反応というのが大切で、説明会のときにアンケート用紙に記入して意見を書いてもらったり、説明会のあとでコンサルティングをしてもらっている人に電話などでインタビューしてもらっています。当の会社のひとには直言しにくい点も考慮して、第三者の方が話しやすいということもあるため。
この前も書きましたように、今回はアナリストやファンドマネージャーの方の出席が過去最多の人数だったので、多くの意見が寄せられました。今回、初めての方も多かったのですが、何回も来ていただいて方も意見を出していただいて、それら触れているうちに、次回に向けて新たな課題が浮かび上がってきました。
その主な内容は、これまで、できる限り会社のことを知って欲しいという思いがあって、まず情報の量を増やしていくこと、また、企業で実際に事業をしているときの言葉とアナリストや機関投資家に使っている言葉が違うので、うまく伝わるように翻訳していくのと、この二点に重点を置いてやってきました。このような量的な増量の方向に対して、質的な向上も考えたら、というのが、出席者からいただいた意見の大方の方向性でした。それは、ポイントを絞ることとか、表現の簡潔性を高めるとか、もっと踏み込んで言うと、IR説明会というのは、企業が関係者を集めて、これからこのようビジネスを成長されていくという所信を表明するところでもあるので、現状の説明も大事だが、何をどうしたいのかという大事な点を出席した人にメッセージとして伝えることをもっと考えてもいいのではないか、ということだと思います。ただし、これは思うにある程度、企業を理解し、分析するのに必要最低限以上の情報をきちんと公表し、それなりの公開情報の蓄積があって、はじめて言えることで、最初から、情報も何もないところでメッセージをといったら、単なるスローガンになってしまいます。だから、このような意見を出席者が寄せてくれたということは、私の勤め先が出している情報については一定レベル以上と認めてもらっていることになります。そういう評価を皆さんからいただいたということに、うれしく思いました。個人的な思い込みかもしれませんが、これは出席者の皆さんから、私の勤め先のIRについて、ここで一段ステップアップするように、というメッセージのように思えるのでした。
前回の投稿で、多くの方が出席してくれたことに感激したと書きましたが、それ以上に、出席してくれた皆さんが、私の勤め先に対して意見を出してくれたということが、実は、たいへん、ありがたいことなのです。この人たちは、企業の分析をして投資対象としてどうなのかという評価をしたり、投資をするのが本業で、会社に意見を言っても一文の得にもならないのですから。しかも、敢えて企業に対して苦言を呈したり、厳しい意見を出してくる人もいます。企業の側も人間ですので、そういう耳に痛い意見を聞くと気分を害する人もいるかもしれません。そうしたら、企業と良好な関係を築きにくくなるかもしれないのに、敢えて、意見を出してくれる、というのは、企業に課題を克服してもらって成長してもらいたいという思いの現われなのではないかと思います。嫌いな人や言っても仕方のない人には、だれも苦言を言わないでしょう。だから、厳しいことを言ってもらえる企業というのは、それだけ嫌われていない、可能性があると期待されているということではないかと思います。
これまでの説明会も、前回の説明会に対する意見を参考に少しずつ改善を行ってきたと思います。それを以前から見てきていた人は、そういう実績を踏まえて、ここまでやってきたのだから、今度、こうすることもできるだろう、と言ってきてくれていると思いました。これは、IRということに限定されず、企業の経営姿勢に対しても、同様のスタンスで接してくれていると思います。
その意味で、できるところは、その意見に応えていきたいと思っています。とすれば、だんだん説明会と言う場が、一方的に企業から情報発信する場というものから、企業と投資家が共同で作り上げる場として考えてみるのが適当なのではないかと考えるのです。
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