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2011年7月13日 (水)

佐々木俊尚「キュレーションの時代─つながりの情報革命が始まる」(10)

この「視座」を提供する人を、英語圏ではキュレーターと呼び、キュレーターが行う「視座の提供」がキュレーションである。日本では慣用的に博物館や美術館の学芸員の意味で使われている。世界中にある様々な藝術作品の情報を収集し、それらを借りてくるなどして集め、それらに一貫した何らかの意味、企画展として成り立たせる仕事である。これは、これまで述べられてきた情報のノイズの海からあるコンテキストに沿って情報を拾い上げ、口コミのようにしてソーシャルメディア上で流通させるような行いと、非常に通底している。だからキュレーターということばは美術展の枠からはみ出て、今や情報を司る存在という意味にも使われるようになってきている。例えば美術展では、2010年夏の東京藝大美術館でのシャガール展では愛と幻想の画家という見慣れたイメージとは異なる、ロシアの民族的根源性とアバンギャルドとの関係が浮かび上がり、シャガールというコンテンツから既存のパッケージを引きはがし、そこに新たなコンテキストを付与する。そして、このコンテキストを付与したのは、ポンピドー・センターのキュレーターで、彼の持っているシャガールやロシア前衛主義への知識と教養、そして彼が持っているアートへの深く豊かな世界観があってこそ、このコンテキストは豊饒な意味をもって、我々の前に立ち並ぶことができた。

コンテンツとコンテキストという両方の要素があってこそ、我々はコンテンツをさらに深く豊かに愛することができる。そして、コンテンツとコンテキストは相互補完的な関係であって、コンテキストは決してコンテンツのおまけ程度の副次的な存在ではない。勿論、シャガールというコンテンツは、ポンピドー・センターのキュレーターのコンテキストがなくても、天才の作り出した素晴らしい作品として屹立しており、予備知識がなくても、見た瞬間に心が躍り素晴らしい感動と衝撃を与えてくれる。その意味では、コンテキストは所詮コンテンツに寄り添うだけの存在であって、単独に成り立つ要素ではないかもしれない。しかしアートの世界には、最初に紹介したヨアキムのように、コンテンツがなければ決して誰にも認知されずに終わってしまいかねないコンテンツも存在する。その典型がアウトサイダーアートである。

現代アートのメインストリームでは、作り手は表現者であるのと同時に自分の作品がどのようにして今の時代に受け入れられるのか、どこにその場を求めればいいのか、そしてどうプロモーションしていけばいいのかという編集的、ビジネス的センスまでもが求められている。作り手であると同時にキュレーターであり、エディターであり、プロデューサーであり、プロモーターでもなければならない。その方向性を突き詰めているのが、現代日本でいえば村上隆と言える。彼は世界市場で自分の作品を売っていくために徹底して歴史と市場を分析し、計算し、緻密な戦略を立てた。彼の『芸術起業論』では「藝術作品単体だけで自立はできません。鑑賞者がいなければ成立しないものです。もちろん作品版倍もお客様あってのものです。どんな分野でも当然の営業の鉄則が、芸術の世界でだけは『なし』で済むなんていう都合のいいことはありません。」「欧米では芸術にいわゆる日本的な、曖昧な『色がきれい…』的な感動は求められていません。知的な『しかけ』や『ゲーム』を楽しむというのが、芸術に対する基本的な姿勢なのです。欧米で芸術作品を制作するうえでの不文律は、『作品を通して世界芸術での文脈を作ること』です。僕の作品に高値がつけられたのは、ぼくがこれまで作り上げた美術史における文脈が、アメリカ・ヨーロッパで浸透してきた証なのです」つまり、彼は自分で自分の作品にコンテキストを付与し、そのコンテキストがアメリカ・ヨーロッパの美術シーンに接続できるような戦略を立てていったということで、彼は天才的なアーティストであると同時に、極めて優秀なキュレーターでもある。しかし、アウトサイダーアートの作り手たちは、そのような戦略的発想は一切持っていない。自分以外には興味がなく、ただ自分のためだけに作品を作っているような人たちと言える。だからこそ、キュレーターという存在が必要になって来る。キュレーターがアウトサイダーアートにコンテキストを付与し、それを現代の芸術界に重ね合わせていく作業を行っている。つまりは、アートと言う巨大なプラットフォームの上で、表現とキュレーションが分離し、それをモジュール化して存在しているという構図になっているのだ。

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