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2011年8月 5日 (金)

あるIR担当者の雑感(41)~IRとしての株主総会~株主通信の作り方(3)

前回お話しした表紙をめくると、多くの株主通信では社長の写真を見ることができます。ほとんどの場合、表紙をめくったページは「株主の皆様へ」というようなタイトルで社長のあいさつが載せられているようです。中には、株主総会招集通知のなかで事業の報告というかたちで載せられた文書がそのまま流用されていて、最後に株主の皆様という文言を取ってつけておしまい、というケースもよくあります。このようなケースでは、独立して事業の報告の説明は省略されることも、よくあるケースです。また、企業によってはインタビュー形式にして読みやすくしたり、社長に対して親近感を抱けるように工夫しているケースもあります。しかし、アメリカの上場企業の年次報告書を読んでみると、“経営者の手紙”というようなコーナーがあってCEO自らが、株主さんに対して、自分の経営をアピールするように業績や将来の計画を熱く語っているのが常です。例えば、JPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモンは40ページも費やして自らの思いを書いていますし、世界的な投資家ウォーレン・バフェットは経営するバークシャー・ハサウェイで毎年書いている“株主への手紙”は新聞でも話題になります。日本企業では社長自ら筆を執ることはしませんが、私は企業としてとしてこのようなことをやってもいいのではないか、と考えました。そのため、できるだけメッセージ性を持たせるように努めています。実際に、このページのあいさつ文については、業績レポートが後にあるので、とくに客観的になる必要はないというのが私の考えです。ここで、株主さんや投資家が一番求めているのは、今期の業績や来期の展望に対して、社長(会社)がどう認識しているのか、ということだと思うからです。具体的に言うと、例えば、当社は今期業績で営業黒字に回復しました。そのことについて、社長はそれで満足しているのか、それだけでは飽き足りず次期以降黒字幅を広げていこうとする意欲が強いのか、というようなことです。これには、経営者としての社長の気持ちの問題が入って来るので、客観的な言い方では十分伝わりません。そして、そのような経営者(会社)の考えていることをメッセージとして直接表現できる場としては、この社長あいさつが一番適している、というよりも、ここしかないと思います。また、冊子の冒頭という一番目につくところに一番大切なことを堂々と掲げるのが、一番読む人に伝わり易いと考えたからです。個人的な意見ですが、企業の経営において事業を伸ばして行こうとすれば、リスクを取るということは避けられないことです。同じように、株主の支持を勝ち取り、市場での株価を上げて行こうと真剣に思うなら、リスクを覚悟で情報発信することは必要だと思います。市場は、そこに企業の本気度を見るはずです。

次が、事業の報告と今後の展望についての説明です。私は、このページが株主通信のメインと考えています。企業に投資している株主に対して、その投資の成果として、投資した企業の業績や状況を知るというのは、当然のことと考えてのことです。大きな会社では投資家向けにアニュアル・レポートを作成していますが、私の勤め先では作成しておらず、その代りに株主通信をアニュアル・レポートのミニチュア版のように見られればいいと思います。

私の勤め先がアニュアル・レポートを作成していないのは、予算上の理由からですが、それ以上に、投資してくれている株主を差し置いて、投資してくれるかどうかわからない投資家向けに詳細なレポートを作成するのは順番がおかしいと思うからです。フェア・ディスクロージャーという公平に情報開示するという原則があるかもしれませんが、投資してくれた人と、そうでない人を区分するのは当然で、株主さんは企業に投資することで、リスクを負っているわけで、そういう人は報告、説明を受ける権利を有しているわけです。その意味で、アニュアル・レポートを作成するよりは、株主向けの株主通信で充実した報告を行う、という考えです。ただし、フェアリー・ディスクロージャーの点から、株主でない投資家から株主通信を見たいという要望があるようなら、お渡ししますというわけです。

アニュアル・レポートについて2~3言付け加えると、株主は投資をしてくれている投資家ですから、投資をしてくれていない投資家より(たとえ、これから投資してくれる可能性があるとしても)も、気持ちとしては大切であるということを前提にしています。それは、企業の姿勢として、投資家に対してだけでなく、顧客や取引企業に対しても通底していることではないかと思います。さらに穿った見方をすれば、投資家に対する姿勢から、その他の顧客や従業員などに対する企業の姿勢が垣間見えるとして、そのように見られることを考えるべきではないか。だから、既存の顧客を大切にして長期的な顧客との関係づくりを重視する企業もあれば、新規顧客の獲得を主力にしている企業もあります。それは企業風土や事業の性格等により一概にどれがいいとは言えないものです。

では、具体的に株主通信の内容を見ていくと、私の勤め先では事業セグメントが3つに分類されているので、その主要3事業について、それぞれ見開きの2ページずつをあてがい、全部で6ページのスペースの中に、事業環境と事業の経過状況、次期への見込みと施策が主に報告されています。これだけ聞けば、他の会社と同じだと思う人も多いでしょう。実際の株主通信のページを見ると文字の圧倒的な多さに、他の会社の株主通信と違うことがすぐ分ると思います。それだけ、報告したいこと、報告しなければならないことがある、ということです。

まず、事業環境について、かなりのスペースを割いて説明しています。この事業環境についての説明は、客観的事実というよりは、当社は事業環境をこのように捉えています、という環境に対する会社の認識及び評価という内容になっています。といっても事実とかけ離れたというわけではありません。実際の事業戦略は、事業環境に対する認識があって、それに対処するために個々の施策が採られるということになるわけです。だから、実は、企業の事業の打ち手と繋がっているものです。その意味で、事業の経過報告の前提となるものです。株主が知りたいのは、こういう事業環境で企業はこうした、その結果だと思います。

多くの場合、決算短信や株主総会の招集通知ではスペースが足りないこともあるのでしょうが、環境がこうだったから、結果はこうだったという書かれ方、とくに業績が良くなかったときに、そのような書かれ方をしているケースが多いようです。しかし、株主が知りたいのは、そういう時にどんなことをやって、あるいはやらなかったのか、ではないかと思います。この株主通信で、事業環境と事業の経過を分けたのは、企業の側のそういう書き方(業績を環境の所為にしてしまうような書き方)をしないし、株主も分けて読めるようにしたためです。

この株主通信の中では、特に事業環境については、私の勤め先はB to Bの事業をしているためユーザーなどの市場が株主には自明でないため多くの紙面を割いて説明しています。それを何回も重ねていくうちに市場の特徴も浮かび上がってくることを期待しています。また、株主の中には株を持っていても、それをメインの投資としてではなくて、他の株式とリスク分散のためのポートフォリオを組んで少数の株式を持っている人もいると思います。その中から、市場環境を詳しく報告することで、業界動向を知るために株を持ち続ける人も現れるかもしれないと期待することもできるわけです。

そして、事業の経過状況については、基本的に決算説明会の資料で説明していることを、分かり易く噛み砕いて説明しています。特に昨年の株主通信で今後の施策として掲げたことの経過や成果も含めて、です。

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