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2011年8月12日 (金)

池田純一「ウェブ×ソーシャル×アメリカ 〈全球時代〉の構想力」(19)

ここまではグーグルとfacebookを対比的に捉え、グーグルは合理主義的で機械的で電子の「市場」を推進し、facebookは人間主義的で電子の「広場」を体現するという具合だ。このような対比は、あくまでも単純化したもので、現実の世界ではウェブが偏在しており、コンピュータ開発の最初期に構想された「マン・マシン系」、すなわち、人間と機械がともにシステムに繋がれ協働する状況となっているからだ。そうなると。両社はマン・マシン系の現出に向けた二つの代表的なアプローチと考える方が適切だ。

マン・マシン系で見た時、モバイルとソーシャルの間には決定的な違いがある。グーグルとアップルによるモバイル分野の競合は端末開発の競合でしかない。人間と機械は切り離され、もっぱら機械がどうなるかが問われる。インターフェイスの巧拙が消費者への訴求点となる。その意味では閉じたデザインだ。一方、グーグルとfacebookによるソーシャル分野の競合では、人間と機械は截然とは分かれない。端末の先にいる人間とその人の知識や交友関係をもネットの中に組み込んで考えることになる。グーグルの場合は、むしろウェブの上で稼働するポットやウェブに接続された機械をいかに稼働させるかに関心がある。これに対してfacebookではユーザーの持つ「ネットワーク」はウェブに限らない。その人が所属するあらゆる交流関係までもが組み込まれる。むしろ、そのような交流関係のすべてがウェブ上に投影されることが企図されている。このネットワークを介して人も機械も繋がっている状態は、グレゴリー・ベイトソンに従えばエコロジカルな状況にあるといえるだろう。つまり、マン・マシン系が一つのエコシステムをなし、その総体として生き物のようにあるということだ。こうしたフレームに従えば、ウェブに囲まれた私たちは、いわば、「エコロジカルな存在」であるといえる。そういってしまえば、逆に、機械を生物として見なすような関係を築くこともできるかもしれない。

ウェブが偏在するということはフィードバック網が偏在することでもある。その落とし穴は、一度設定された目標に対して漸近していく仕組みが洗練化されていく一方で、良くも悪くも、その目標に近づくことしかできなくなることだ。フィードバックはある意味で「揺り籠」だ。一度システムを設計してしまえば、その目的に向かって自動的に進むことになる。しかし、その揺り籠は安楽椅子でもある。そのループを抜け出す方法はシステムそのものには書かれていない。市場に適合するだけでは、早晩、消費者と制作者の間で鏡像的な関係が作られるだけのことだ。フィードバックの揺り籠から抜け出すためには、当初の目標の外部に歩み出て、新たな目標を設定することが必要だ。そこにビジョンの役割がある。

現在のウェブは、場=プラットフォームを作る人(アーキテクト)と、その場の上で個々のサービス=アプリを作る人(クリエイター)、そして、そのサービスを消費する人(プレイヤー)、の三層構造からなる。クリエイター、プレイヤーの両者は同じサービスに関与するものとしてしばしば似たものとなる。先進国のように一定以上の生活水準が長らく成熟市場では、ある商品のファン=消費者であった人がそのままその業界で供給者側に移ることは多い。日の意味で、クリエーターとプレイヤーはかなりの程度互換的だ。一方、アーキテクトは、このクリエーターとプレイヤーのやり取りを横目に見ながら、彼らのインタラクションを促すにはどうしたらよいか、プレイヤーの満足を増すにはどうしたらよいか、プレイヤーの関与やその究極として消費を促すにはどうしたらよいか、などを考える。場合によっては、クリエーターの捜索の動機付けについても知恵をねぐらす必要が出てくる。というのも、場のアーキテクトは最終的に個々のクリエーター+プレイヤーのユニットからの収益で場の維持を行うことが多いからだ。この構造は、そのまま税収を何に使うのがよいか考える都市の統治者に近い発想になる。都市計画を行う建築家のような発想が場のアーキテクトには求められる。このように改めて、場を設定するアーキテクトの発想から考え直さなければならない場面が増えている。だから、今後のウェブの構想力を捉えるため、実は社会に関わる思想や哲学に関心を寄せる必要がこれからのビジネスマンやエンジニアには出てくる。

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