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2011年8月 8日 (月)

あるIR担当者の雑感~IRとしての株主総会~株主通信の作り方~オリエンタルランドの株主通信について

オリエンタルランドの最新の株主通信をみました。いくつかのブログで感動したという書き込みがされていたようなので、興味をもってオリエンタルランドのホームページから、株主通信を拝見しました。

表紙をあけた扉に「これまで誰も経験したことのない大震災、その後1カ月以上にわたる休業、そして再開。そのプロセスの中で私たちが向き合ってきたのは「当社の使命とは何か?」でした。…ハピネスを届けたい…」というメッセージが書かれていました。

株主通信を手に取った人を感動に誘い、そのことをネットで書き込まさせてしまうのは、すごいと思いました。企業としての姿勢と、その出し方という点でオリエンタルランドという企業のカラーにフィットした、頭の下がるものでした。しかし、それはそれとして、他でもない株主通信でこれをやるのか、という疑問も感じました。投資してくれた株主に対して、震災を機に企業の姿勢を再認識して、それをメッセージとして伝えるというのは素晴らしいことです。しかし、このようなやり方が株主通信としてどうなのかとも思いました。というのも、このメッセージについては、何も具体性がないのです。オリエンタルランドが届けたいハピネスって何なのか。ディズニーランドに来る来訪者やこれから投資するかもしれない人にならそれでいいかもしれません。しかし、株主は既に投資してくれた人たちです。当然、企業としてのオリエンタルランドは、それが企業としての姿勢ならば、抽象的なことにとどまらず、これを具体化し実際の経営の打ち手に反映させているはずです。投資した側としては、経営のそのようなプロセスとその結果を先ず知りたいのではないでしょうか。つまり、株主通信が投資してくれた株主に経営の現状を報告するのが本筋だとすれば、ハピネスを届けるという経営姿勢を再確認したのなら、当然、事業の現場で実際にできているのかの検証をしているはずで、それが経営に具体的に反映されれば、何らかの体質改善なり、経過の段階でもいいから何らかの具体的な動きがあるはずです。

それがなければ、この感動的なメッセージは単なる空疎な掛け声に終わってしまう。

そして、もう一つ引っ掛かるのが、「ハピネスを届けたい」というのは、誰が言ったのか、ということです。つまり、次のページに社長のあいさつがありますが、感動的なメッセージを発した会社のトップがそのこととには触れることもなく、かなり温度差のある挨拶をしている。

とくに、メッセージと社長あいさつが見開きになっていて、この対照は鮮明です。となると、これは制作会社の代理店のどこかの企画で、つくられ、社内から声が上がったとか、経営陣が真剣に議論したというのではなく、いいコピーとして採用されたと邪推できてしまうのです。

こういうと、オリエンタルランドに悪意があるように思われるかもしれませんが、それほどトップのことばに、そのような熱が感じられない。その後の株主通信の内容や表現についても、そういう視点がでていない。つまり、扉だけ浮いているように感じられるのです。それが、とても残念でなりません。

また、アニュアル・レポートでは株主通信と同じようなメッセージが少しだけ変えられていました。「ハピネスを届けたい」が「happiness of artを届けたい 」に置き換えられていました。この意味は何なのか、きっと意図があるのでしょう。そして、アニュアル・レポートでは経営計画に各題目のところでハピネスに触れていましたが、中身では触れられていないようでした。このあたりには何か意図があるように思いますが、よく分かりませんでした。

そして、株主通信、アニュアル・レポートを興味を持って読んでみました。たいへんよくできたものだと思いますが、結局のところ、私には、今回のオリエンタルランドのキー概念であろう「ハピネス」とは一体何なのかということが、分かりませんでした。これって、本当は、今回、一番伝えたかったことなのではないかと思うですが。私の仕事はオリエンタルランドの株主通信のような質の高い仕事ではないので、自分のことを棚上げしてこんなことを言うのは、たいへん失礼なのですが、この株主通信が日本の株主通信の中ではトップクラスの質の高いものであることは論を俟たないと思っていることは確かです。しかし、詰めが甘いのではないかと、そういう点で参考にさせていただいたものでした。

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