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2011年8月24日 (水)

あるIR担当者の雑感(45)~あるIRセミナーの感想

先日、無料という言葉にひかれてIRセミナーに参加してきました。「好事例から学ぶ上場企業のIR活動」というセミナーで主催したのは株式の証券や有価証券報告書、株主総会の招集通知のような専門分野の印刷会社で、最近コンサルティング業務の充実に努めていて、その一環でセミナーを熱心に行うようになった会社です。講師は日興IRでコンサルティングを長年続けてきたという人です。

で、最初の導入で、最近のIR活動について気になる点からはじまりましたが、その一つが“そもそも何のためにやるのか分らないIR活動の増加”というのが、バーンと出てきてしまったのは驚きでした。色々なところで囁かれていたのは耳にしましたが、こうもあからさまに言われたのは初めてで、IR担当者を集めたセミナーでこんなことを言って怒り出す人もいるのではないか、とちょっと心配になりましたが。まあ、このような書きかたはワザとらしいかもしれません。企業内で前任者から仕事を引き継いで、個々の仕事はこうやるのだということは教わったものの、その仕事の意味や目的が把握できずルーチン化して続けているという会社が実態として、結構多いのでしょうね。この書き込みを続けて読んでくださっている方なら、私がIRという仕事は経営に片足を突っ込んでしまいそうな仕事と認識していることは、以前に読まれたと思います。どこの会社にルーチンで経営している経営者がいるでしょうか。やっている意味が分からないのなら、無駄なことはやめてしまえ、というのが経営ではないか思います。とくに中小企業では、IRについて担当者の個人的な踏ん張りで何とか存続させている会社は沢山あるはずで(私の勤め先もそうです)、その担当者たちはルーチンで仕事など思いもよらないはずです。セミナーに出席しているIR担当者は、これをどう聞いたのか、とても興味があります。

ちょっと、このことに拘泥しますが、そこで講師が何のために会社説明会をやるのか、ということから説明を始めました。これは、それなりに意識している人のようだと思いました。この講師の人は、その後は話が進むと途中で熱くなったりと、熱意の感じられる人でした。で、その答えとして、“アナリストにレポートをかいてもらうため”“機関投資家に投資してもらうため”というものでした。そして、このセミナーは、この目的に従ってアナリストがレポートを書くという目的に沿った説明会資料づくりを解説していきます。たしかに違っているとは言えません。しかし、少し、違和感は感じました。というのも、説明会を行ったからと言ってアナリストはレポートを書いてくれるとは限りません。また、さらに言えば、“何のためにIRをやるのか”から“何のために説明会を開くのか”に降ろされてきて、その目的が“レポートを書いてもらう”ということのロジックが繋がらない、筋が通っていないのです。“何のためにIRをやるのか”が“投資家との関係づくり、関係強化”にあるとしたら、“レポートを書いてもらう”というのは、どの点にどのように繋がるのか。私的にいちばん繋がるのは、アナリストが言うなれば、投資家との媒介として、まずはアナリストとの関係づくり、関係強化にあるならまだしも。そこで、IRの目的という問題提起をしながらも、問題提起以前に戻ってしまっていて、この説明会の目的の考えについてはルーチン的な性格なものなってしまっている。そこでの思考停止が気になります。

そのあと具体的な説明資料の解説に入りますが、そこではアナリストにレポートを書いてもらい易い資料づくりという視点で解説が行われます。しかし、ここでも前提に飛躍があるというのか、ルーチンで思考停止の痕跡があるというのか。ここで、前提になっているのは、説明会を行うとアナリストはレポートを書いてくれるので、それが容易になるように資料を作り込むということです。しかし、そういう会社は一部の有名大企業に限られます。多くの会社は説明会を開いたからと言ってレポートを書いてくれるとは限らない。はなはだしくは、説明会を開いてもアナリストが出席してくれないというケースも少なくないはずです。今回のセミナーでは、そういう会社は対象外になるのでしょうか、ということなのです。だから、実際には、私の勤め先の場合には、いかにアナリストに会社に対する興味を抱いてもらうか、あるいは一端アナリストの中に灯った興味の火を消さずに保つか、すなわち、関係づくりに主となります。そのためには、アナリストがレポートを書くために必要なデータを揃えるのはもちろん、会社を分ってもらうということが、いかに大切かということなのではないか、と思います。そのためには、1回だけ素晴らしい資料をつくるというではなくて、継続して、会社が悪い時も良い時もできるだけの情報を発信し続ける、継続しながら資料の改善を一歩ずつ進めていくという継続性、そしてそのような時の経過の中で一貫しているということ、前回の資料を検証して、次回につなげるという継続性、そのようなことが大切ではないか、と思います。

また、もともと印刷会社であるからなのかプリントされた説明会資料を完成品として扱っていることにも、違和感を感じました。というのも、説明会では、この資料をもとに社長がプレゼンを行うわけです。つまり、説明会資料は書籍のように、黙ってこれを読んでいればいいというものではないわけです。

私はアナリストではないので、ピントがずれてしまっているかもしれませんが、データが揃っているからといってレポートを書いてくれるわけではないと思っています。アナリストにレポートを書いてもらうということに集中するのなら、データを揃えるのも大切かもしれませんが、アナリストの会社の可能性を発見してもらうことの方が重要なように思います。当然、今後の成長戦略を記載することは、講師の人も言っていましたが、その戦略を支える会社の特性や強み弱みなど、それを単に情報として伝えるというだけでなく、もう一歩踏み込んで、アピールするくらいの重要性は大事のように思います。たとえば、以前にも書きましたが、他社と差別化を図るというような戦略性というべきものです。

また、実際にそのような点に考えながら資料を作るという場合、ほとんど大多数の会社では社内に対して、IR担当者は猛烈な調整作業をしなければなりません。例えば、戦略を語ろうとすると、営業からはライバルに機密が漏れてしまうとクレームが入り、データを明かそうとすると経理から待ったがかかり、場合によっては社長から、こんなことまで話さなければならないのか、と。その社内の各処を説得しなければならず、しかも、ほとんどの場合、意図したとおりにはならず大幅な後退を強いられる。往々にして、情報開示に熱心な会社は、社長の理解があるか、担当役員が熱心なケースで、担当者がいくら熱心でも、それだけでは進まないと思います。私の場合は、会社が小さいのと、年齢を重ねているので、ある程度自分の社内での将来とか、評判などから多少は超然とできるので、社内の抵抗に、ある程度は開き直って対抗できている、という特殊な事情があります。そのような、実際に、担当者が改善を進めるとなった場合の、作業や負荷のことも考えてほしいと思いました。

講師の人は、担当者の熱意を持つことは大切であると力説していました。その通りだと思うのですが、前任者から引き継いだというだけのルーチンワーク化したIRでも、当の担当者としては特にサボるわけでもなく一生懸命にやっているわけです。そのため、熱意があるというのは難しいのですが、少なくとも講師の人がやったような何のためのIRなのかという問いを絶えず問いながら、自分のやっていることを見直し続ける姿勢が、熱意に繋がるのではないかと思います。

ということで、この後、個人株主対策とか、株主通信の内容とか、ホームページの作り方などについて、具体的な話がありましたが、全体として、個別には参考になる点もあり、全体としては講師の人が意図していたこととは逆にIR業務のルーチン化に資するようなことになっていたように思えるものになっていました。

また、セミナーの後でIRツールの診断をしてくれるとのことで、後日、結果を教えていただけるとのことで楽しみにしています。

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