あるIR担当者の雑感(46)~アナリストレポートを書いてもらえた!
今週、あるセルサイド・アナリストの方が、私の勤め先のレポートを書いて下さいました。ちょうど数日前にアナリストにレポートに書いてもらうことに触れた書き込み(あるIR担当者の雑感(45))をしていたので、偶然というのか、タイミングに苦笑いしているところです。それ以上に、レポートを書いていただけたということの喜びを噛みしめています。以前から何度も触れていますが、私の勤め先はB to Bの堅実だけれど地味なメーカーで株式の時価総額や市場での出来高も少ないので、市場での注目度は低く、注目度以前に知られていないという会社です。業績も取り立てて急激に伸びているということでもないので、アナリストレポートが書かれたというのは、ここ数年ありませんでした。
今回レポートを書いてくれたアナリストの方は、10年近く私の勤め先を見てきてくれた方で、ここで、遂に書いていただけたということになりました。レポートを書いていいだけこともさることながら、よく、これだけ長い間、私の勤め先のような地味な会社を追いかけていただけたと、思います。というのも、今回レポートを書いてくれたのは一つの形となって残ったものですが、それまでは、そのような形も残らなかったにもかかわらず、時間と手間をかけて私の勤め先の説明会に出席したり、会社を取材で訪問したりしてきたわけですから。その執念というのでしょうか、これと狙った獲物は放さないというような凄みのようなものも感じています。
企業でIR業務をやっていて、アナリストにレポートを書いてもらうというのはたしかに一つの目的ではありますが、有名な大企業や市場で注目度の高い企業であれば、それを目的として、実際に複数のレポートが書かれるので、目標に対して達成度も測れるというものです。しかし、私の勤め先のような会社では、レポートを書いてもらうことを目標にうたっても書かれるかどうか…という状況なので、あまり大声で言い難い。実際に、レポートが書かれて、それを読んでみて、あらためて、「オレの会社も捨てたものじゃない」と思ったのでした。IR担当者として恥ずかしい限りです。
で、先日の書き込み(雑感(45))ででも触れていましたが、株式を上場している会社は限られた例外を除いてアナリストレポートを書いてもらっている会社ではないのです。その辺りの事情を限られた例外に入っていない上場会社の担当者の立場でお話ししたいと思います。
まず、上場会社に対してアナリストの数が全部をカバーできるほどいないということが上げられます。アナリストにしてみれば、追いかける企業の数には限界があります。4000社近くある上場会社をいくつかのセクターといわれる部門に分けて、アナリストもそれぞれにそのセクターによって自らの守秘範囲をもっています。その守備範囲の中でも会社数は多い。しかし、セクターごとにアナリストは何人もいるのだから手分けすればカバーできると言われるかもしれませんが、セクターの全体の動きや傾向を押さえていなければ、セクターの個々の会社は分析できない。だからセクターのリーディングカンパニーを追いかけなくてはならない。また、アナリストも投資家に推奨できる会社の情報を教えるというようなお客さんがいる商売でもあるので、優良な銘柄やお客さんが求める会社の情報は提供しなければならない、ということで、セクター内でも沢山のアナリストが追いかける会社と見向きもされない会社に分かれることになります。と言ってもアナリストどうしでも証券会社の競争もあり、他が未だ見つけていない良い銘柄を見つけたりすることで、競争していたりするわけです。
ここで、セクターのリーディングカンパニーや優良銘柄、あるいは投資家が情報を求めてくるような会社は、さっき言った例外に入る会社です。こういう会社は決算説明会をすれば出席者は多いし、決算ごとに定期的にレポートが書かれます。それ以外の会社は、極端にいえばアナリストが他のアナリストに先駆けてその会社の可能性を見つけ投資家に推奨することで差別化をはかろうとする対象となる会社と言えます。実際には、そんなに単純化して区別できるわけではありませんが。ここでは、議論を分りやすくするために極端に単純化しています。
これも単純化していますが、人によって様々なのですが、だいたいのところアナリストもセクターの企業を扱う際に分類しています。それは常時レポートを書いている会社、このレポートを書いている会社の中でも、何段階のニュアンスにより段階分けされているようですが、私の勤め先は、ここには入ってこないので、一緒くたにします。このような会社をアナリストによりカバレッジされていると言われることもあります。正確には、レポートを書かなくても注目してカバーしているのでカバレッジということもありますが。いくつかの会社のホームページでカバレッジされているアナリストを公開しているところもあります。
そして、それ以外の会社のうちレポートは書いてはいないけれど追いかけている会社です。これは、会社自体に体力があったり、将来可能性があるのをアナリストが注目しているのだけれど、未だ本格的な成長になるにはかなり時間がかかるのだったり、どこか気になる問題があったり、タイミングを逸してレポートが書けなかったりとか、何らかのネックがあってレポートが書けないでいるけれど、レポートを書く会社になる候補の会社です。そして、その下にそういう段階には至っていないけれど興味は持っていて、情報があれば取敢えずはプールして追いかけてはいる会社です。それ以外は、未知の会社か興味のない会社ということになります。
私の勤め先は、何とかアナリストが興味を持つ会社か、あるいは追いかけている会社になろうとIR活動をしているわけです。
だから、ひとくちにアナリストにレポートを書いてもらうという目標についても、会社の市場でのポジションによって、目標のニュアンスが変わってくるのです。だから、具体的戦術レベルでいえば、それぞれのポジションにより目標が変わってくるのだから、アナリストに対するアプローチのニュアンスも異なるはずなのです。
前回の雑感(45)の説明会資料の話に戻れば、定期的にレポートを書いてもらっている会社は、セミナーで指導したようなアナリストがレポートを書くのに便利なデータを資料に載せるのが正解なのです。しかし、レポートを書いてもらっていない会社の場合は、アナリストにまず、興味をもってもらうことから始めなくてはないはずです。その次は会社の魅力や可能性を見つけてもらう。そのあとは、レポートを書く気持ちになってもらう。と説明会資料をはじめとしてアナリストに対する接し方の重点は移ってくるはずです。それは例えば、営業マンが初回訪問のお客さんに、先ずは企業のことを知ってもらうことからはじめて、段階的に製品の紹介に移ったり、提案をしたりするプロセスを経て受注の成約に至るのと変わりはありません。IRを会社そのものの売り込みと考える人もいるくらいですから。ただ、どの段階でも言えることは、IR担当者としては誠実さ熱意が必要だということです。
レポートを書いてもらった興奮が冷めやらず、どこか自賛めいた文章になっているかもしれません。
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