下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(10)
2.日本自動車メーカーの対中戦略
日本の自動車メーカーは中国進出にはそのリスクの大きさを考えて、極めて慎重であり、欧米勢の後塵を拝し、最近になって本格化、加速させつつある。その理由として、次のような点が考えられる。
まず、中国の自動車産業政策が、改革開放路線を展開し、市場経済化が進む中で目まぐるしく変化したことである。何よりも重要なことは、中国の自動車産業は旧ソ連の技術援助と社会主義経済減速のなかで進んだために、極めて変則的な発展を遂げたことである。中国の自動車産業の国有企業であり、生産した車は国家が買い取り、これを必要とする企業や諸機関に配給するという仕組みとなっていた
第二の問題としては、自動車工業育成をめぐる中央政府と地方政府の方針の食い違いが目立ったことである。
第三の問題点は、知友語句はたしかに「三大三小三微」の基本政策を確立したが、それは90年代に入ってからで、依然として国有企業のままで、中国に投資して合弁事業を展開しようとしても、国有企業と組まざるを得ず、そのために様々な制約が出てくる。国有企業そのものの株式会社化による改革が進まねば、迂闊には組めないということになっていた。
問題の第四は、中国はあくまで「三大三小」政策主体で考えていたことがあげられる。
そして、第五の問題点として、中国はアッセンブラーの進出よりも、部品メーカーの進出を望んでいたが、日本の部品メーカーが安心して取引できるアッセンブラーの日本からの進出なしには、徳へ刹那システム部品のメーカーでもない限り、単独進出は難しかった。また、中国は未だ部品メーカーの進出の基盤となるインフラが整っておらず、中国の安い労働コストにつられて進出したものの、工場付近の道路、水道のインフラから従業員の住宅までのコスト負担が上回ることもあった。また中国ではあちこちに散在する小自動車メーカーの工場を含め、部品をそれぞれ見よう見まねで作ったために、メーカー間の部品の規格が必ずしも統一されておらず、メーカー間の部品の規格が必ずしも統一されておらず、その標準化を今進めつつある段階である。加工精度の高い部品生産には部品や部材の規格化と標準化は不可欠であるが、従来はその条件が整っていなかった。この点も部品メーカーだけの単独進出を制約している原因となったと思われる。
しかし、2000年代に入り中国がWTOに加入し国有自動車企業の株式会社化や民営化を含めた自動車産業政策の前向きの進化に伴い、日本の主要メーカーの中国進出は急速に加速し、主要三社以外のメーカーの中国進出も本格化した。
また、部品サプライヤーの対中国戦略は、技術分野の違いや労働集約度の違い、そして特定自動車メーカーとの系列度合いや独自の戦略判断の違い等により多岐にわたっている。
« 下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(9) | トップページ | 下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(11) »
「ビジネス関係読書メモ」カテゴリの記事
- 琴坂将広「経営戦略原論」の感想(2019.06.28)
- 水口剛「ESG投資 新しい資本主義のかたち」(2018.05.25)
- 宮川壽夫「企業価値の神秘」(2018.05.13)
- 野口悠紀雄「1940年体制 さらば戦時経済」(10)(2015.09.16)
- 野口悠紀雄「1940年体制 さらば戦時経済」(9)(2015.09.16)
« 下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(9) | トップページ | 下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(11) »
コメント