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2011年9月10日 (土)

下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(12)

第2節 インド

1.インドの自動車市場と産業政策の動向

アジア新時代を迎えつつある世界の自動車産業にとって、中国と並んで大きな注目を集めているのがインドである。生産規模が急速に拡大し、需要の潜在的可能性も高い。さらにインドは中国に負けない人口大国であり、中国のように一人っ子政策という人口政策をとらなかったゆえに若年人口が多く、将来少子化が進む中国を追い越すことは間違いない。

このような中でインド経済が脚光を浴びている理由は、第一に、インドが独立後、鋭意取り組んだ農村の近代化により自給自足が実現し、いまや食糧輸出国となったこと。小型トラクターの生産量が世界一など農業生産力の向上は著しい。第二にも教育水準の全体的なレベルアップが著しく、識字率の向上が実現したこと。第三に、アグレッシブな企業活動を行い資金を豊富に有するタタやミタルといった財閥グループの存在がある。

インドは長らく国家統制経済のもとにあり、漸進的な自由化政策を進めてきたが、1991年の経済危機を契機にIMFの指導を受け入れ本格的な自由化に舵を切った。具体的には思い切った規制緩和と競争原理の導入、そして貿易と直接投資の自由化、とくに外資導入の活発化などが行われた。このような自由化生産により成長軌道に乗ったインドだが、最大のネックは全国的な交通インフラ整備の立ち遅れである。中国のような一党独裁国家と違って、政府の指令のもと、土地収用や住民の立ち退きを強権的に進めることはできないという事情もあるため、今のところ高速道路ネットワークの整備は緒についたばかりである。こうした道路インフラの立ち遅れは、インド独自の交通事情と自動車市場の成立をもたらしている。したがって、インドに渦巻いているパーソナルモビリティーの根強い要求は、富裕層主導ではなく、上位貧困層に主導が移りつつあり、中長期的には貧困層、すなわち農民層と若年層に次第に主導権は移っていく構図となる。

こうして大衆輸送手段として、先ず登場したのがオートリキシャ(三輪オートバイ)であり、スクーターやモーターバイクである。このようなインドにおける二輪車需要の拡大は、今後の四輪車モータリゼーションの潜在的な可能性の高さを予見させるものである。現在までの自動車需要は、人口の集中度が高く所得水準が高い大都市部に偏りがちであった。人口の絶対数の多い農村についてはまだ先のことになろう。それは、地方農村の自給自足経済による閉鎖性と地方の劣悪な道路事情によるところが極めて大である。また大都市の自動車需要といっても高速道路の延長距離が限られており、そのためドライブの距離も相対的に短い。そして産油国でないため、ガソリンや軽油の燃料費が高くつくあり、乗用車市場は小型で低価格のものが多くなっている。

現在のインドの自動車市場は大きな過渡期にある。年々増加の一途を辿る上位貧困層と中間層の動向もさることながら、自動車交通インフラの整備と発展に負うところが大きい。現在進行中の交通インフラ整備が進めば、自動車セグメントの上位移行起こることが考えられる。インドの自動車市場、特に乗用車市場はミニ・コンパクトの小型車市場が主力であり、例えば韓国や中国のように、中型高級車から需要の拡大が始まり、次第に大衆レベルの小型車市場の拡大に移行しつつあるのと対照的である。インドの自動車市場を展望するときに忘れてはならないのは、上位貧困層や中間層、富裕層の動向だけでなく、今後増大するであろう若年労働人口と、現在でも人口構成上大きな比率を占めている農村人口が将来生み出すであろう巨大な需要である。

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