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2011年9月 2日 (金)

下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(4)

2.グローバル再編はなぜ暗礁に乗り上げたか

これらのグローバル戦略は、その優れた着眼点にもかかわらず、本国の事業運営が行き詰まり、それとともに全体のグローバル戦略のミスリードを誘発している。GMやフォードの本国の北米市場を中心とする経営不振は、景気動向や自動車市場の販売動向が特に悪化していたわけではないから、明らかに戦略のミスリードによる構造的な原因によるものである。

この戦略のミスリードの結果としてGMやフォードは、北米市場の市場動向の急速な変化に対応できる商品力を欠いていた。それまで、GMやフォードは、日本車との激しい競争を避け、乗用車の本格的開発に力を入れなかった。当時では、ピックアップやミニバン、SUVなどのライトトラックの分野で利益を稼ぐことを可能にし、この点で米国メーカーの収益性の向上には有効であった。しかし他方では、その後の米国市場とグローバル市場の動向の激変に対応できるブランド価値の創造や、それと並んで、ガソリン価格の高騰に伴う燃費経済性志向の高まりへの対応を遅らせることになった。競争の激しい乗用車の開発に力を入れなかったことは、膨大な開発費と工場投資がかかるエンジンの開発に力が入らないことに通じる、日進月歩のエンジン技術の停滞は、乗用車のみならず、全体として自動車のブランド価値の停滞に結びつきやすい。同時に、ライトトラックの車台がフレームシャーシー主体であるために、乗用車のプラットフォームの開発力が低下することを意味する。これが後になって乗用車のSUV化や乗用車プラットフォームの小型SUVへの流用によるクロスオーバーモデル登場という、市場の新しいトレンドに立ち遅れる原因となった。これに対してライトトラック不戦屋で出遅れた日本の自動車メーカーであるが、燃費効率の良いエンジンを搭載し、かなりの数のモデル、特に小型SUVなどと乗用車のプラットフォームを共用化したクロスオーバーモデルを次々と登場させ、成功を収めた。以上のことに加え、GM、フォードは、工場の生産システムを、ひとつのモデルを長期的にかつ大量に見込み生産する、フレキシビリティのないマスプロハイボリュームのシステムをそのまま温存した。このことは量産効果を上げるために工場稼働率を一定のレベルに保ち、常に供給能力を維持していくため、販売流通の分野で巨額のリベートやインセンティブを負担することで、実質的な値引きを定着させた。リベートやインセンティブは本来は一時的な需要調整のためにどの自動車メーカーも行うものであったが、GMやフォードの場合はけた違いに大きく、かつ構造的に定着してしまったのである。このような状況では新車のブランド力を高めることは難しく、グローバルな商品開発力を高めるための主導力を発揮することはできない。

以上のような北米事業の運営に関わる問題点に加えて、グローバル戦略が暗礁に乗り上げた大きな原因は、その前提となる基本発想それ自体にあるとみることができる。つまり、グローバル戦略において、先ず何よりも規模の経済性のみに目を奪われた、いうなれば数合わせのM&Aを前提としている。この発想はグローバル戦略の根幹をなす二つの原則、①グローバルプラットフォームの統合、②部品のグローバルソーシング戦略と密接に関連している。

グローバルプラットフォームの統合は、IT技術が発達し、デジタル設計が進み、製造工程の自動化とデザイン設計のスピードアップが進展する中で、地域ごとにバラバラだったプラットフォームの設計を機械的に統合するやり方は、製品のブランドアイデンティティーを損なうことになる。ひとつのプラットフォームを他の地域に押し付け、無理に統合しようとすれば、それぞれの地域の市場ニーズにはマッチしない車種を、規模の経済性ゆえに無理をして作らせることに通じ、逆にブランド価値を低下させかねない。また、プラットフォームの統合は、設計部門や製造部門の独自の組織文化を無理やり統合することに通じ、新しいコンフリクトを生み出しかねない。

グローバル戦略のもう一つの柱である部品やコンポーネントのグローバルソーシングについては、GMやフォードの場合、これまで部品の内製率が高かったのを、アウトソーシングを増やして外注率を高めてきた経緯があるが、グローバルソーシングとは、部品取引のグローバル化に伴い、最適地、最適調達の名の下に世界中の部品生産地域の中で最も低コストで調達でき、かつロジスティックス上問題がない地域を選び、そこから重点的にかつ大量に調達するというやり方を指している特に新興地域が焦点となる。ITの発達による部品調達のデータベース化とネット調達の広がりは、これまで困難と思われていたグローバルな調達における即時的な情報のやり取りと、購買戦略の迅速な決定を可能にするように見えたことも、グローバルソーシングの戦略に拍車をかけた。その結果、部品調達における世界的なマップの塗り替え=リロケーションが強調されるにいたった。だが、自動車技術の目覚ましい発達とグローバルな品質競争のもとでは、それを支える部品の品質や技術の動態的評価─部品メーカーの潜在能力評価─が不可欠であるにもかかわらず、欧米三社のグローバルソーシングの基本的な発想は低コスト対利用勾配が基本であり、この点でも規模の経済性だけを前面に押し出したものであった。これは、目先のコスト引き下げに貢献するが、長期的に見た場合の品質、特に総合品質や、部品メーカーの開発能力と設計能力など技術力の評価がなおざりにされがちであり、一般的傾向としてトータルでの品質の停滞と、これに伴う品質保証のためのワランティーコストの増大を招きやすく、環境や燃費などの新技術への部品メーカーの取り組みが遅れがちとなる。以上のように理由から、グローバル戦略は、いずれもいずれも一面的な規模の経済性にのみにとらわれた発想故に、表面的なコストダウン効果と裏腹に、ブランド価値の向上や設計開発の柔軟な対応、そして部品の品質や技術力の統合性や潜在能力の評価が疎かになるリスクを伴うことになる、グローバル再編はその戦略発想の根底にこのようなリスクがあることを見逃したがゆえに、暗礁に乗り上げのである。

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