あるIR担当者の雑感(51)~共感のIR?(続き)
前回の続きです。
少し視点を変えて考えてみます。投資家が企業に共感するということ、それが動機付けとなって投資(株式の取得)に結びつけるという議論でした。と言っても、言うは易し、行うは難しというところでしょうか。
実際に、投資家に共感してもらうということは、前回分析してみた「感動」という受動的なパターンであれば、出会いがしらのように何らかの強烈なメッセージとか目を惹くビジュアルという手段により可能となってくるでしょう。何しろ、相手は受け身であるので、強いインパクトを与えることにより関心を惹くことは十分可能です。しかし、それとは異なり、主体的で、参加するという性格が強い場合、投資家の側にも共感するための姿勢というものがあるのではないか、と思うのです。そこで、会社とのやり取りを通じて少しずつ、それを満たして行って、一定レベルを越えたところで共感が進むというイメージで考えています。これは、一時的なインパクトによる熱狂のような場合と異なります。息の長いプロセスがかかるため、一時的な熱狂なら冷めてしまうのです、そこでは、冷静に見極めもあるでしょうし、それこそ投資家の個人個人が自分の独自の評価や判断で進められるものではないかと考えます。
だとしたら、企業の側では、どうすればいいのか。実際のIR活動の中で、何をどうして行こうとしているのか。
ここではっきりと、具体的に、これが有効だ、というものを提示することはできません。現に、いま、私も、試行錯誤の中にいるわけですから。しかし、ここで、ヒントとして次のようなことが考えられるのではないでしょうか。
話は少し変わりますが、現在、この会社のIRについては、担当者は私1人ということでやっています。社員規模が300人に満たない中小企業では、人員を割くことは難しく、珍しくもないことです。年2回の説明会を行い、資料を作成し、短信や有報、株主通信などのツールを作成し、ホームページのIRサイトを運営し、機関投資家とのミーティングを行う、あとはアナリスト等の市場関係者の問い合わせに答えたり、といったところが代表的なことです。これをだいたい一人でこなしているわけです。しかし、かといって独りで完結して、すべてを完全に行っているわけではありません。そこでは、社内の他の部署に協力を仰いだり、IR支援の社外のコンサルティングにお願いしたり、ホームページはウェブ関係の外注業者に依頼しています。そこでの彼らとの関係について、物事を依頼する⇔依頼に応える、という関係にとどまらないことを求めています。
こういうことを言うと傲慢に聞こえるかもしれませんが、物事を依頼する⇔依頼に応える、というやり取りが、それを契機にして、その当事者がその関わりによって何らかの成長できるようなことになる、ということを考えています。彼らの一人ひとりとの関係において、関係を作るということにより、彼らの将来にコミットする、そのことに対して、私は責任を持たなくてはならない。当の彼らにしてみれば、「何のこっちゃ?」ということになるでしょう。まず、言えることは、彼らを何かしてもらうための道具とか手段としは、絶対に見ない。
例えば、決算説明会の開催について会場やそのセッティング、当日の受付や案内状の送付といった開催に関する諸事は幹事証券会社に委託しています。この場合、これらはルーティンワークとして、無難にやってくれれば、それでいいという見方もあります。しかし、証券会社の担当者にしてみれば、一応のフィーを受け取れるからと言って、学生アルバイトでもできてしまうような作業では物足りないはずです。彼らも、何社もの面倒を見、それなりの経験はあり、想いやスキルの蓄積はなされているはずです。その彼らが、よりパフォーマンスできるように持っていくことはできないか、という視点で、彼らにコミットしていくことはできると思います。時には、敢えて彼らに重いハードルを課すことがあってもいいはずです。具体的にいえば、この会社とよく似た会社の説明会に出席して、この会社の説明会に出席していないアナリストに声をかけてみるとか、また、どうしてこの会社の説明会には出席する気にならないのかを聞いてみるといったことは、発行会社ではなかなかできないことです。そこで得られる情報は、説明会に限らずIR活動を続けていく際に有意義なものになるはずです。このようなものを、彼らが自発的に引き出すことになるためには、自発的に参加してもらわなくてはならない。そこで生きるのが「共感」ということになるのではないかと思います。
これは、発行会社とアナリストとの関係にも言えることです。実際に、IR担当者として、取材していただいたアナリストの方々のおかげで、成長させていただきました。本人が言うのも烏滸がましいところはありますが。そして、これだけにとどまらず、アナリストの側でも、この会社を取材することや、追跡する、分析する、担当者や経営者と話をすることで、彼ら自身が成長できるようなステージを提供できないか。その先に「共感」というものが、こちらから意識的に仕掛ける場合には、そういうあり方しかないのではないか。そこに会社の経営理念やビジネスモデルへの理解があって、「共感」に達するということではないか。要は、経営理念なりビジネスモデルなりを前向きに理解しようとする深い意味での動機付けを仕掛ける必要があるのではないか、と思うのです。
だからこそ、なおさら、コミュニケーションの重要性というところに戻ってしまうのです。
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