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2011年9月18日 (日)

港徹雄「日本のものづくり 競争力基盤の変遷」(3)

6.モジュール化とアジア系EMS企業の台頭

日本企業の国際競争力に大きなインパクトを与えている技術的要因の一つが、モジュール化の進展である。モジュール化とは各機能製品(デバイス)間を連結するインターフェイスを標準化することを意味しているが、これによってモジュール化が進展している電子機器の生産プロセスは大幅に変容し、日本の電子機器下請企業の存立基盤は大きく揺らいでいる。

電子機器産業でのモジュール化は部品の互換性と製品の標準化を進展させたが、このことは同時に製品レベルでの差別化の余地が大きく狭まったことをも含意している。この結果、パソコンやオーディオ機器等ではブランド間での製品差別化が困難になっている。

電子機器のモジュール化の進展は、製品間の製造技術の独自性をも小さくしている。例えば、モジュール化が進展する以前では、パソコンと電話機あるいはビデオゲーム機の製造工程はそれぞれ相違があり、企業はそれぞれの製品を別個の工場で製造してきた。ところが、モジュール化が進展するとこうした製品間の製造工程の差異は大幅に狭まり、これらを別個の工場で生産する意味はなくなり、生産工場の統合が進展した。この結果、これまで特定の製品を生産する工場から仕事を受注してきた下請中小企業のなかには、親工場の統合に合わせて整理淘汰されたものも少なくない。

モジュール化の進展に伴って1980年代に入ると、生産工程の一部を請け負う伝統的な下請企業に代わって、電子製品の設計から最終組み立てまでを大規模に請け負うEMS(Electronics Manufacturing Services)業態が登場し、電子製品の製造がこうしたEMS企業に一括発注されるようになった。21世紀に入ると、電子製品部門では販売量が販売水準によってのみ決まるという、一般商品(コモディティ)化が一層進み製品価格低下が加速した。このためEMS企業は大幅なコスト削減要請に直面するようになり、人件費の高い先進諸国での生産では採算を確保することが困難となった。また、デジタル化された生産機器がより高性能化し機器価格も下落したため、中国に巨大規模の生産子会社を有するアジア系EMS企業が急速に台頭するようになった。

EMS企業はなぜこのように急激な成長を実現させたのであろうか。まず第一に、電子機器産業でのモジュール化の進展によって電子製品の製造プロセスが、メーカーや機種が異なっても同質性が高いため、多くのメーカーから受注しても生産ラインを大きく変更する必要が少なく効率的に生産を行うことができることである。しかも、受注から生産・出荷に至る全工程が最新の情報通信技術によって的確に管理されるため、規模の経済性が最大限発揮できるようになっている。さらに、桁違いの大量受注によって半導体等デバイスの資料調達において強いバイイング・パワーが付与され、有利な価格で資材を調達できることもコスト競争力を強めている。

7.基盤型産業の凋落

自動車産業をはじめ、あらゆる量産品の生産にとって金型工業は最も重要な基盤型産業である。日本の量産型機械工業の品質面での競争優位性のかなりの部分は、金型工業の高い技術・技能水準によって支えられてきたといえる。ところが、その金型工業が2000年以降相次いで経営悪化に陥った。というのも、金型は、その設計や製造に必要とされる高度な熟練技能の多くがコンピューターによって代替された典型的な産業であった。つまり、3DICT革新によって三次元のCAD/CAMがパソコンレベルでも容易に実現されるようになり、金型設計ソフトも急速に進化した。このため、それまでは効果で操作性も悪かった三次元での金型設計作業が、比較的安価となり操作性も向上した。日本の金型技術者は、二次元の設計図面から三次元の金型をイメージして加工する高い技能を蓄積してきたが、三次元CADが普及するとこうした技能の重要性は相対的に低下した。また、コンピューター技術の進化は、金型を加工する工作機械(MC)の加工精度を飛躍的に高めた。さらに仕上がった金型の精度を測定する三次元測定機も急速に普及するようになった。この結果、三次元CADによって制作された金型図面は、そのままコンピュータ制御の工作機械類によって製造されるという三次元CAD/CAMが普及するようになった。

8.高度化する中国の生産技術

金型工業をはじめ日本の基盤型産業がその国際競争力を低下させているのに対して、中国の基盤型産業の実力が2005年以降急速に向上している。中国の金型企業では、2000年以降になって積極的に先端的な生産機器を導入するようになっており、05年以降ではそれまで中国国内の金型企業では生産が困難と考えられてきた大型金型が生産されるようになっている。

事例を見ると、これまで移転性の低かった技能や暗黙知がデジタル化されることによって国際的に移転(拡散)可能となったこと、とりわけ、三次元CAD/CAMの導入が高精度な先端的生産技術移転に大きな役割を果たしていること、デジタル化が困難な技術や技能に関しては、資本・技術提携あるいは日本人熟練技能者の直接雇用によって移転されているという主張を確認させるものである。

20世紀の産業界においては、国際競争力を備えた工業製品の生産に必要とされる生産技術の習得や基盤型産業の育成には、20年程度の期間が必要とされてきた。実際、戦時経済下での機械工業の技術遺産を継承した日本においても、機械工業部門が国際競争力を確立し得たのは1960年代後半以降である。しかし、3DICT革新以降の世界では、生産技術習得、基盤型産業育成に必要な時間は大幅に短縮され10年前後で国際競争に耐える生産技術水準を確保し得るように変化している。

9.生産技術移転と資本財輸出

中国では、体内直接投資を始め様々なチャンネルを通じて生産技術移転が進展し、域内分業基盤も急速に強化されている。しかし、工業生産の急激な量的拡大と生産・輸出品目の高度化のテンポに比較すると、分業基盤を構成する支援産業の供給能力は不足しており、こうした需給ギャップを埋めるために日本からの中間財輸入は拡大を続け、また、基盤型産業で必要な高精度の輸入も増大している。こうした中国の資本財、中間財の日本からの輸入は拡大を続けており、その経済成長見通しからすると今後も持続することが期待されるが、輸入代替工業化が進展するにされて資本財輸入依存度は低下すると考えられる。

他方、韓国では、域内分業基盤の形成・強化が進展しており、金型や鋳物、プレス加工等の基盤型産業部門では輸出が輸入を凌駕する優位産業へと転化している。しかし、輸出品目の高級化・高付加価値化に伴って、高機能部材、例えば、液晶テレビ用の偏光フィルム等の輸入需要が拡大している。韓国政府は、日本からの輸入に大きく依存している中間財の輸入代替工業化を産業政策の重点の一つにしている。ここ3年は韓国の輸出が急拡大したため対日赤字は拡大したが、韓国政府のこうした政策努力は徐々に結実してきている。

10.脱「黄昏」は可能か

以上のように21世紀以降の3DICT革新は、日本産業の競争優位の源泉であった企業間の緊密な分業に基づく高度な「ものづくり」能力や長期雇用によって形成された熟練技能の多くをデジタル技術によって代替させた。この結果、中国をはじめ東アジア諸国の機械生産能力を量的にも質的にも急速に向上させている。同時に、これまで日本製品に比較して品質面で劣位にあったアメリカの自動車産業でも、急速な品質改善が進展している。日本産業では一部の高級品分野と高機能中間財部門では依然として強い国際競争力は維持されているが、普及品分野では競争力は低下している。こうした分野では、これまでのような品質優位性に基づく非価格競争力が低下したため激しい価格競争に直面し、従来のように円高による影響を輸出価格値上げにやって転嫁できなくなり、円高が輸出採算悪化に直結している。日本産業、とりわけ輸出の大部分を占める機械産業では、付加価値率低下に直面している。

日本産業は、その競争力が維持されている高機能・高品質を備えた高級製品分野と、近年輸出が急速に拡大している高機能中間財分野へ一層のシフトを図るべきである。また、医薬品、医療用機器のように高付加価値であるが、必需品的な特性をあわせもち、したがって、世界景気の変動に需要が左右されにくい商品分野、つまり、必需的高付加価値産業分野の国際競争力確立を優先すべきである。こうしたバイオ関連産業等の高付加価値産業部門で国際競争力を高めるには、その競争力基盤である知的生産要素供給能力を強めなければならない。先進諸国は、こぞって産業の知的生産性向上に最も注力している。

日本がその産業の「黄昏」を回避するためには、高級品分野、高機能中間財分野、とりわけ必需的高付加価値産業分野で国際競争力を強化することが、ほとんど唯一の道筋であると考えられる。そらには、これまで物的生産で高い企業間生産性を達成してきた日本の分業システムの、知的生産面での企業間生産性を高めることが不可欠の条件である。

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