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2011年9月20日 (火)

港徹雄「日本のものづくり 競争力基盤の変遷」(5)

6.競争力基盤と生産性

(1)マイケルE.ポーターの競争優位性

国際競争力の根源と国際分業パターンの決定要因を分析する場合に最も重要な課題は、国際的な競争優位を獲得する場合に最も重要な課題は、国際的な競争優位を獲得することができるような高い付加価値生産性が、どのようなメカニズムで創り出されるのかということである。また、その高い付加価値生産性を創出してきた要因が、どのような国際的な競争環境変化によって変質するのか。さらには、変化した国際競争環境に適合するための条件はどのようなものかを明らかにすることである。

マイケルE.ポーターは1985年の『国の競争優位』において、競争力を鵜も出す四つの要因である「要素条件」「需要条件」「関連産業・支援産業」「起業戦略及び競争環境」をあげ、彼がダイヤモンドと呼ぶ図の各頂点に位置し、それぞれ相互に関連することが示唆されている。

ポーターの競争優位論では、各要因がどのようにして特定国の産業の国際競争力を高めるかについては明確に示されている。しかし、それぞれの競争要因がどのような経緯で編成されたのか、また、それがどのような要因によって変遷するのかについてはほとんど説明されていない。さらに、こうした競争要因が特定の産業に属する企業に均等に寄与することが暗黙の前提になっているようである。

(2)競争力の複層構造

我々の分析は、企業の国際競争力は、企業固有の競争能力と、産業レベルの競争力の二層から形成されている。産業レベルの競争力は、第一に、当該産業における企業間分業によって実現される企業間生産性の高さであり、第二に、当該産業に必要とされる生産要素(資本、労働力)の質を高める要素供給システムに依存している。従って、産業の競争力基盤は、この企業間分業システムと生産要素供給システムから構成されている。

競争力基盤はその地域(国)に立地するすべての企業が利用可能であるが、その基盤から供給される企業間生産性向上効果をどの程度享受できるかは企業ごとに異なっている。つまり、競争力基盤からの受益性が高い企業は、その企業の総競争能力を高めることができるが、競争力基盤を有効に活用できない企業は、その効果を企業の総競争能力に少ししか反映することができない。このように、産業の競争力基盤がもたらす効果は、各企業の受益能力によって伸縮している。

他方、企業固有の競争能力は、その企業が生産する製品の差別化の程度によって規定されていると言っても過言ではない。なぜなら、競争的市場では同質的な商品は激しい価格競争に巻き込まれて、限界費用以上の価格を維持することが困難であるからである。製品差別化を実現するのは各企業のイノベーション能力であるが、それは各企業の保持する知的資産の蓄積度に依存している。従って、国際化によって規模が拡大した企業は、その蓄積した知的遺産を追加費用なしに利用範囲を拡大できるから、その企業の生産性は一層向上することとなる。

また、国際競争力を企業固有の競争力と産業レベルの競争力基盤との複層構造から把握する試みは、企業レベルでの国際化を分析するより現実的な枠組みであるばかりでなく、産業間貿易の説明にとっても有用である。なぜなら、競争力基盤から派生する企業間生産性の高さは、国ごとに、また産業ごとに異なっており、企業間生産性が高い産業が輸出産業化するからである。つまり、ある国の産業が国際競争力を強めて輸出産業化してということは、企業固有の競争能力とともに、その産業レベルで企業間生産性が国際的な水準以上に高まったことを意味している。

(3)国際競争環境と競争力基盤の相互依存

在る国の競争力基盤から派生される企業間生産性の効果は、長期にわたって安定的に推移するものではなく、その有効性は国際的な環境変化によって大きく変動している。近年、日本のモノづくり能力に陰りが見られるのは、日本の競争力基盤の主要な構成要素である下請分業システムによって実現されてきた高い企業間生産性が、3DICT革新という国際環境変化によって相対的に低下した結果でもある。

国際的な競争環境変化は、技術体系の大きな変革や根菜的な市場(需要)構造の転換等によってもたらされるが、この国際競争環境変化は各国の競争力基盤を変化させ、それは各国産業の企業間生産性を変化させることを通じて、その産業別の国際競争力序列に変化を与える。国際分業構造は各国の産業別の国際競争力序列の集合であるから、各国の競争力序列変化は国際分業構造変化をもたらす。国際分業構造変化は、同時に国際市場構造の変化を促すから、再び国際競争環境変化を導く。このように、国際競争環境変化、国内競争力基盤、国際分業構造は相互に関連し、累積的な影響をもたらすのである。

7.移行経済国の域内分業基盤

域内分業基盤が各国の競争ポジションを変化させ、その変化が国際分業構造に影響を与え、さらに、国際競争構造を変化させるという連鎖的な動きを、社会主義計画経済体制から市場体制に移行した中国とロシアを事例に検討したい。

中国とロシアは、それぞれ市場経済体制に移行して年月が経過した。この間、両国は高度に垂直統合的な企業経営を改め、域内分業基盤の整備に注力してきた。結論から述べると、中国経済は多種多様な支援産業や関連産業が簇生し、強固な域内分業基盤の形成に成功、工業製品の強固な国際競争力を獲得した。他方。ロシアでは、支援産業・関連産業の発展が進展せず、依然として垂直統合的な生産システムを変革できずにいる。この結果、工業製品の国際競争力は脆弱なままで、ロシアの貿易構造は、工業部門の国際競争力が脆弱な開発途上国の構造に類似している。

このようにロシア経済で、域内分業基盤の形成が容易でないのは、①社会主義計画経済体制が70年間も持続し、市場経済を経験した世代が存在しないこと、②地方(省)分権的な経済統制システムの中国と異なって、中央で一元的な経済計画・統制が実施されていたこと、③中央での一元的経済統制を実行するために統制すべき企業数を徹底的に減らす必要があり、ほとんどの業種で1企業から数企業に集約されていたこと、④この結果、企業規模が巨大化し、関連産業部門を内部化した高度な垂直統合型の生産体制となったことが上げられる。ソビエト連邦時代、各企業が関連産業部門まで巨大化した背景には、計画経済のもとで、各企業が必要とする様々な中間財は計画当局の指示によって配分される建前であったが、現実には中間財や生産設備の配分は不十分であり、また、しばしば遅延したことがあげられる。このため、各企業はその生産に必要な中間財や治工具ばかりでなく生産設備さえも企業内部で製造するようになり、内部に長大なサプライ・チェーンを形成した。各企業に内部化されたサポーティング・インダリストリー部門はその企業にのみ製品を供給するものであり、その生産規模は小さく技術進歩も限られていた。このため生産性は低位にとどまっていた。しかし、いったん、自給自足型の巨大な企業体制が確立した経済で、サポーティング・インダストリー部門を担う企業を育成することは容易ではない。

他方、中国で域内分業基盤が比較的速やかに形成された背景としては、以下の五つがあげられる。①社会主義計画経済の期間が30年とロシアに比べ短く、市場経済を経験した世代かが現存していたこと。②ソビエトのような強力な中央集権的計画経済ではなく、各地域(省)にかなり裁量権を残した地域分権的計画経済であったこと。③農村部は人民公社を中心とした自給自足的生産体制で、その公社が必要とする農機具や肥料および一部の消費財を生産していたこと。この生産を担ったのが人民公社内の社隊企業であり、社隊企業は上部機関の命令ではなく、かなり独自な経営管理を行っていたこうした自主的な経営管理の経験が改革開放後に農村地域で設立された郷鎮企業(中小企業)の経営に活かされた。④社会主義計画経済時代に設立された国有企業は、多くの生産工程を内部化した垂直統合型の生産体制であったが、旧ソ連の計画経済とは異なって、同一業種企業が統合されることなく各地に多数の中小規模企業が存在していたことが市場経済移行後の中国機械工業における企業間分業システム構築に寄与した。⑤アリババ・ドットコムのようなB to B取引サイト運営企業が急速に発展したことによって、企業間取引が活発化するのに必要な取引ネットワークが形成されたことも、中国の域内分業基盤の発展に寄与している。この意味で、3DICT革新は、中国の生産活動に寄与したばかりでなく、企業側で分業されたものを統合するための取引システムの発展にも寄与しているのである。

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