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2011年9月 8日 (木)

下川浩一「自動車産業の危機と再生の構造」(11)

3.中国自動車産業の課題と展望

自動車産業のグローバル化の最高到達点は、中国市場と中国自動車産業のグローバル化であり、地球環境問題解決へのロードマップの確立と実行である。環境対策技術と省エネ関連の技術は温暖化防止や大気環境保全に役立つだけでなく、中国が今や原油の輸入大国に変身し、巨額の外貨支払いを要するという現実の中で、国益にかなう道でもある。

これ以外にも未解決の問題を抱える中国でビジネスを展開する日本の自動車メーカー、さしあたりどのようなリスクを考慮していかなければならないか。まず第一に考えられるのは、「10-五計画」で打ち出された自動車メーカーの再編・統合という構想そのものの成否に関するリスクである。この時、中国に進出する外資は、この再編・統合の中で、国有大手メーカーの改革の進展と地方民営企業の自由奔放な活力のはざまに立たされ、独自の戦略が行使できないリスクを覚悟せねばならない。第二のリスクとして、同じ計画での部品メーカーの再編・統合についても多くの困難が存在している。部品メーカーと一口に言っても、その範囲と種類は多岐にわたっている。そのなかには、見よう見まねでも何とかなる分野と、自社開発力と高度な技術力を不可欠とする分野がある。中国では設備や金型などの近代的なものを安く持ち込めば容易に急速な生産拡大を行えるオープン型アーキテクチャーになじみやすい部品のほうが、量産効果と投資規模で勝負がつくので再編しやすい。とくに、イミテーション・パーツや模造品に準拠した部品などを生産して行けば、アプローチしやすい。このようなオープン・モジュラー志向の部品分野に比べ、より複雑高度なインテグラル・アーキテクチャー志向の強い機能部品やシステム部品については、まだ中国の技術水準は立ち遅れており、外資導入によるところが大きい。特にこの分野では設計開発力と精密加工のレベル、電子技術活用のソフトウェア等の点で、日本や欧米の部品メーカーの参入できる余地は十分にある。ただ、この部品メーカーの切磋系開発能力の支援は、何よりも中国の自動車メーカーがどのようなアーキテクチャーの設計思想を持つかに大きく依存しており、最終的には中国の消費者がどんなコンセプトの自動車を選択し、受容するかにかかっている。このようにさまざまな観点から見て、中国の部品産業の再編・集約は国家主導では思ったようには進まない可能性が高く、民間主導か、これに外資が加わった民間企業連合の下で進む可能性が高い。そして第三に小型経済車の行方である。現実に、当面は富裕層中心で上級の中型車やRV車を中心として拡大しつつあるが、中国がより大衆化されたモータリゼーションの国となるには、小型経済車による底辺需要の刺激と拡大が不可欠である。

中国は二輪車については世界一の生産国となっている。これはなぜなりえたか、そして自動車でも同じことが起こり得るか。まず理由については、二輪車の部品やコンポーネントの統一標準工業規格を制定し、これがイミテーションを作りやすくしたことである。そしてこの全国統一規格の制定で二輪車部品、特に主要部品の全国規模の量産メーカーが出現し、大規模投資によるコンポーネントを利用して二輪車メーカーの氾濫現象がみられた。いってみれば中国の二輪車産業はオープン・モジュラー・アーキテクチャー部品の寄せ集めによって、あれよあれよという間に生産量が増えて行ってしまった。その結果、地方の多くの農村車メーカーの参入や地方軍需工場の生産転換が起こり、基幹部品を安く仕入れての見よう見まねのイミテーション二輪車の氾濫と生産量の激増が起こり量的拡大路線をひた走った。

しかし、中国の二輪車産業が、果たして真の国際競争力のある産業にはなっていない。生産過剰気味となった二輪車の輸出は好調とは言えない。その理由は、品質に対する信頼性に欠けていたことだ。そのため、中国の二輪車産業にも家電産業と同様に整理・淘汰と集約が始まることは火を見るよりも明らかだ。

自動車の場合も類似の現象は起こり得る。

中国の自動車産業の将来を語るうえで見逃せないのは、今後の中国国民経済のマクロコントロールと自動車産業の関連である。日本のように生産台数の半数以上が輸出で、海外生産が5割に近づいている国ならいざ知らず、内需主導の中国の場合、自動車、とくに乗用車の個人所有をやたらに増やし続けることになる。これは、国内の乗用車保有が増え続けた時に、それに伴う石油の輸入増大に中国の経済と財政、そして外貨収支がどこまで耐えられるというのっぴきならない問題がある。環境問題の克服と徹底した省エネなしに、中国自動車産業の中長期的発展はあり得ない。この年代と正面から向き合うことこそ、中国に進出した先進国の自動車メーカーの試金石であり、これを乗り越えてこそ、メーカー自体の持続可能な成長の新しいパラダイムが進化するのである。

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