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2011年10月 7日 (金)

松原誠一郎「経営革命の構造」(1)

41vzhvxz5bl__ss500_ 技術と市場が変化するたびに、人間は新たなビジネスを考え出してきた。小さな共同体が交易を開始し、新たな市場を創造するには馬車や船が必要であり、馬車や船が長距離に耐えるには、鉄や羅針盤など新しい技術が必要であった、この技術と市場の関係に加えてさらに重要な役割を担ってきたのが、組織であった。とくに、技術が人間の能力を大きく超えてしまった後には、人間は人間の個人的な能力を超える実体すなわち組織を作り上げなければならなかった。

イギリスの技師ジェームス・ワットは、起業家マシュー・ボルトンの後援を得て蒸気機関を完成、商業化していった。この二人の試みは、それまでに進展していた様々な技術とビジネスを統合して、ついに産業革命というかつて経験したこともない世界に人類を導いた。蒸気機関の存在によって、人類は工場制度や鉄道を手に入れた。これによっていままでの生産力や地域といった限界を一挙に拡大した。しかし、この力を適切に発揮するには、人類にはもう一つの挑戦があった。個々人の能力を超えた生産力や地域を制御したり管理したりする組織構築という課題である。本書は、こうした技術と市場の変化の中で、人間がどのように事業機会を発見し、さらにその夢を実現するためにどのように組織や経営の革新を遂行して来たのかを歴史的に追うことを課題としている。この技術・組織・経営革新の歴史は、科学革命に対抗するような経営革命の歴史でもある。

このような視点に関連し、本書では技術とはきわめて社会的な存在であると前提している。例えば、蒸気機関に関して言えば、蒸気とその圧力の存在については古代ギリシャの時代には発見されていた。それが持続的な動力機関となるまでは2000年以上の時が経っている。その18世紀のイギリスにおいてこの動力革命が遂行されたのだが、それはなぜだったのか。蒸気や圧力の存在に気づいても、蒸気機関が実現されるには強力な圧力を閉じ込めることのできる強靭な釜、加工しやすく耐久性のある物質、鉄が必要であった。強度、価格、量産性から言って、当時のイギリスはウェールズに存在した鉄鉱石を木炭路を使うことによって錬鉄として大量に産出した時期にあった。さらに、鉄という素材をかなりの精度まで加工する技術がなければ、圧力を効率的に力に変えることはできない。機械を作る機械、個遺作機械において、当時のイギリスは抜きんでた蓄積を行っていた。とくに商業的なプレッシャーを感じない分野で、この機械の発達が進んだ。それは兵器産業である。18世紀の大砲の中削りをする技術が大きく進展した。この精度が蒸気機関のシリンダーの精度につながった。また、技術的な前提が整っても、革命は更なる前提を要求する。新たな力を必要とする市場の広がりである。当時のイギリスは植民地を大きく拡大していた。このような空間的な広がりに加えて、精神の広がりが決定的であった。

新たな技術と市場が垣間見えた時、そこにはたくさんの不均衡やギャップが生まれる。実はそれを大きなビジネスチャンスだと構想できる担い手がいなければ革命は遂行されなかった。産業革命とは、こうした様々な社会的変化の中で、様々な要因が複合的に重なり合って実現したのである。

技術とはこのようにきわめて社会的な存在であり、いくつかの要素が複合的に実現しないと進歩しない。しかし、同時に、それまで誰も気が付かなかったような点在する要素を、新しい変化をまとめ上げる人間がいなければ進歩の契機は見出だせない技術とは社会的な存在であると同時に、人間ときに企業家と呼ばれる人々の所産である。この意味でイノベーションは、ある時期のある地域に群生する。イノベーションが次々に技術革新を引き込んでいき、集積が集積を呼ぶという好循環が繰り広げられるからである。

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