松原誠一郎「経営革命の構造」(4)
第2節 蒸気機関の完成
自動織機は18世紀を通じて様々な発明や発見を組み合わせながら、紡糸と織布においてかなりのスピードと品質を達成した。この機械が工場制機械工業に展開していくには、これらの機械を絶え間なく動かす動力が出現する必要性があった。しかし、その動力自身もさまざまな発明や関連する産業の発達なしに実現しなかった。
当時、大規模な動力を必要とした産業は鉱山業だった。とくに石炭と鉄鉱石の発掘である。石炭は15世紀以降のヨーロッパにおける最も重要な燃料であり、イギリスでは輸出も盛んで、18世紀には国内製造業で幅広く石炭が燃料として普及し、需要が増大し、石炭採掘の生産性向上が社会的な課題となっていった。とくに鉱山業の生産性向上は、深く掘ることを可能にすることにかかっており、そのためには坑道の湧き出る水を効率的に汲み出す必要があった。大量の鉱石を持続的により深い場所で掘り続けるためには、どうしても水をくみ上げるための持続性のある動力が必要になっていた。
蒸気を用いることは早くから注目され、幾多の発明家たちによって試行錯誤が為されていった。蒸気により人工的に真空をつくり、その作用により水を吸い上げるという工夫や、ボイラーの上に蒸気を充満させるシリンダーを置き、シリンダーにピストンを取り付け、そのピストンに天秤棒のような揺棹の一方の先をつないで動力とする方向に行き、ここではシリンダーに蒸気を入れたり止めたりを人間の手で栓の開け閉めで調節していたのが、後に自動開閉のシステムが発明され、と徐々に改良が進められていった。
そこに出現したのがジェームズ・ワットだった。かれは、それまでの発明家たちが職人的な経験や思い付きで機械を改良していったのは異なり、科学的知識に基づいた理論的な発明家だった。彼は、従来の蒸気機械の欠陥を解決するところからスタートした。一度温めた蒸気を無駄にしないように、常に蒸気を蓄えて十分圧縮できる圧縮機を別に備え付け、また、ピストンの下降について自然に任せるのではなく、蒸気を双方向の運動に変えることによって強力なピストン運動を生み出した。さらに、このピストン運動を上下動から円運動にかえることによってエンジンとしての機能の効率化を進めた。そして、彼にはビジネスの才覚をもち、彼の技術を理解したパートナーを得て、幾多の試練を克服し、1769年に最初の特許を申請した。機械への注文は1775年ごろから出始め1780年代には名声も高まっていった。
回転運動は蒸気機関の用途を途方もなく増大した。ポンプとしての蒸気機関が、炭鉱産性向上をもたらし、石炭を燃料とする製鉄業の増産をもたらした。さらに、回転運動はとなった動力は製鉄・製鋼さらにはその加工の生産性向上に飛躍的上昇をもたらした。この両者の関係は革命の火が爆発的に広がっていく
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