瀧本哲史「僕は君たちに武器を配りたい」(6)
第6章 イノベーター=起業家をめざせ
日本はこれまで人口は増える一方で、経済自体の規模が膨張していく時代が長く続いていた。成長のベクトルは常に上を向いており、あらゆる業種、業界に目指すべき成功のゴールが存在していた。がむしゃらに、愚直に、ひとつのことだけをやっていれば、幸せになれる時代があった。松下幸之助の言葉にあるような「成功するまで続ければ誰でも成功することができる」ということが現実にあった。しかし、現代では新興国をはじめとして世界中のあらゆるところでものづくりが行われており、高コストの日本の企業が愚直に生産を続ければ、それは「死への行進」に他ならない。
もし、日々行っている業務が「死の行進」だと感じたならば、とりあえず死の行進を続ける振りをして、自社の弱点を冷静に分析することをすすめる。自分が働いている業界について、どんな構造でビジネスが働いており、カネとモノの流れがどうなっていて、キーパーソンが誰で、何が効率化を妨げているのか、徹底的に研究するのである。そうして自分が働く業界について表も裏も知り尽くすことが、自分の唯一性を高め、スペシャリティへの道を開いていく。そして常日頃から意識して、業界のあらゆる動向に気を配ることで、「イノベーション」を生み出すきっかけと出会うことができる。
イノベーター的な観点からすれば、「落ち込んでいる業界にこそ、イノベーションのチャンスが眠っている」と考えていい。また、起業家が新しいビジネスを見つける時の視点として、「しょぼい競合がいるマーケットを狙え」という鉄則がある。今現在、凋落しつつある大手企業の周辺には、たくさんのビジネスチャンスが眠っている。イノベーター的な視点から学生に就職先をアドバイスするならば、「今落ち込んでいる業界の周辺企業で、将来的にナンバーワンのポジションを取れそうな会社を狙え」ということになるだろう。そのようにイノベーター的な考え方をすると、潰れそうな会社に入ることにも大きな意味がある。例えば、今はなんとか持っていても、将来の先行きはないだろうと思われる会社に入り、その会社を徹底的に研究する。そして、その会社が潰れる前に退職し、その会社を叩き潰す会社を作るのである。
イノベーションを生み出す発想力、特殊な才能の持ち主のみが持っている限られたものではない。イノベーションは、日本では技術革新と訳されるが、実は新結合という言葉が一番この言葉の本質を捉えた訳語だと考えている。既存のものを、今までとは違う組み合わせ方で提示すること。それがイノベーションの本質だ。社会にインパクトを与える商品やサービスを生み出したい、と考えたとしてもまったく新しい製品を作る必要はない。今既にあるものの組み合わせを変える、見方を変えることによってイノベーションを起こすことができる。
だからイノベーター型の起業家を目指すのであれば、特定分野の専門家になるよりも、色々な専門技術を知ってその組み合わせを考えられる人間になることの方が大切なのである。他の業界、他の国、他の時代に行われていることで、「これはよい」というアイディアは徹底的にパクればよいのである。イノベーションをある業界で起こすための発想術は、実はそれほど難しいことではない。その業界で「常識」とされてきたことを書き出し、悉くその反対のことを検討してみればよい。
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