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2011年11月14日 (月)

瀧本哲史「僕は君たちに武器を配りたい」(3)

第3章 学校では教えてくれない資本主義の現在

起業については、卒業したての学生が起業するときに、一番よくある失敗は、コモディテイ会社を作ってしまうことだ。学生ベンチャーが業界に新規参入し、たまたまある時期成功したとしても、それは学生の労働力が社会人に比べれば圧倒的に安く済み、またヒマであるがゆえに仕事が速いと言った理由で、一時的に競争力があったに過ぎない。だからこそ学生は、卒業後すぐな起業するのではなく、一度就職して、社会の仕組みを理解した上で、コモディテイ化から抜け出すための出口を考えながら仕事をしなければならない。そうして出口を考えながら好機を待っていた人が、30前後で満を持して起業し、成功するパターンがベンチャーには多く見られる。

(専業主婦とは、夫に自分の人生のすべてをかけるということである。死ぬまで健康な男はいない。絶対に潰れない会社も存在しない。他人に自分の人生のリスクを100%委ねることほど、危険なことはない)

就職活動を控えた学生に、混乱をもたらしている原因のひとつとして、企業側が学生に求める資質の変化も挙げられるだろう。ほんの少し前までは、企業側は学生に対して即戦力であることを求めておらず、むしろ「真っ白な状態で入社したものを、一から鍛えたい」と考える企業が多かった。しかし現在では、どこの企業も入社後すぐに戦力として使える人材を求めている。1990年代までの日本は、高い最終学歴を獲得すれば、良い就職先に入ることができ、その後の人生における収入と社会的地位を確固とすることができた。学歴主義には弊害もあったが、少なくとも努力をして学校で成績を上げることが、社会的地位の向上につながるという、分りやすい価値観を社会と個人にもたらした。そのため、「良い暮らしができないのは個人の努力が足りないからだ」と、社会的にも見なされ、「なぜ私は不遇なのか→それは努力が足りなかった」という具合に、不公平感を抑えることができていた。その後、90年代後半、目に見える「テストの結果」や「学歴」に加え、「意欲」や「コミュニケイション力」などの定義があいまいで、個人の人格にまで関わるような能力が、評価の対象になり始めた。その結果、評価される側が、「何をどう努力していいか分らない」と混乱する結果を招いている。このような客観的に数値化できない、性格的特性を重視する傾向が広まることで、若者の無気力や諦め、社会へ出ることへの不安を助長してしまう可能性がある。

現在の日本で、安定した職場というはない。例えば1971年の就職人気企業を見ていると、潰れた会社、今青色吐息の会社が半数以上を占める。この40年間で日本を覆った規制緩和とグローバリゼーションの波に耐えられなかった会社は軒並み倒産するか、ビジネスそのものがコモディテイ化して苦境にあえいでいる。1971年の人気企業で現在生き残っているのは、グローバルブランド化した企業だ。

「世の中でこれが流行っているから」と現時点で話題になっている業界の会社に就職するのも、危険な選択と言える。更に言えば、現在絶好調な会社に就職することは、言葉を変えると、数年後にはほぼ間違いなく輝きを失っている会社に就職することとほとんど同義と言える。どんな素晴らしい企業も、未来永劫その価値を維持し続けることはできない。現代において、働く個人が常に経済的、社会的に高いポジションを維持するためには、次のどのビジネスモデルが成功するか潮流を見極めながら、転職を繰り返すことが必然の行動であることが分かる。投資の世界では「高すぎる株は買ってはいけない」というのが常識である。会社選びも同じだ。就職・転職希望者には、自分が就職を検討している会社が「高すぎる状態」になっていないか、よく考えてみるべきだ。

就職希望者に「これから伸びる産業はどこか」という質問を受けるが、すでに多くの人に注目されてしまっている分野には行かない方がいい、ということだ。就職先を考える上でのポイントは、「業界全体で何万人の雇用が生み出されるか」という大きな視点で考えるのではなくて、「今はニッチな市場だが、現時点では自分が飛び込めば、数年後に10倍か20倍の規模になっているかもしれない」というミクロな視点で考えることだ。まだ世間の人が気づいていない市場にいち早く気付くことなのだ。

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