あるIR担当者の雑感(61)~議決権行使助言会社は違法じゃないのか?
今回は、ちょっとマニアックな話です。株主総会の担当者の勉強と情報交換の集まりとして東京株式懇話会というのがあります。何回か、ここでも話題としていますが、略して株懇と呼ばれています。部会の名のもとに、毎月メンバーが集まって、勉強会を行っています。今月の勉強会が、先日あり、3月決算の会社は期末が近付いてきているため、自然と話題の中心は定時株主総会に関するものが中心となってきます。そのなかで、最近ISSだとかグラス・ルーツといった会社のことが話題に上ります。これは機関投資家の議決権行使について助言を行うという会社です。株主総会の議題、取締役の選任とか、役員賞与の承認等の株主総会の議題に対して、株主である機関投資家に対して賛否を判断し、投票について助言を行うということで手数料を受け取るというものです。機関投資家はたくさんの企業に投資をしているので、招集通知を全部見切れない。以前なら、機関投資家は、議決権行使をしていなかったのですが、年金基金から投資の委託を受けている場合などは、一旦取得した株式を簡単には売れなくなっているため、その会社の経営に口出しして来るようになりました。すぐに持っている株を売れないとなると、投資した会社に成長してもらわないと困るので、あれこれ経営に口出ししてくるというわけです。そのため、株主総会で議決源を行使して、例えば、取締役選任の際に有能な人かどうかを厳しく見るようになってきている、というわけです。しかし、年金基金やその委託を受けているファンドは、多くの会社に分散投資をしているため、6月に集中する株主総会で、投資した会社の議決権行使を全部細かく検討できません。そこで、代わりに議決権行使助言会社を利用して、助言を受けるわけです。たいていの場合、機関投資家は、その助言通りに賛否の投票をすることになります。
だから、実質的に議決権行使会社が議決権行使の賛否を決めていることになります。その対策として、各企業は、株主総会で会社の提案した議題に対して賛成の議決権行使をしてもらうために、議決権行使会社に議案の説明に赴き、なんとか賛成の助言をしてもらうように説得することになります。とくに、株主の中で、外国人株主や機関投資家の占める割合の大きな企業は、議決権行使助言会社の助言が株主総会の議決に与える影響が大きくなっています。中には、6月の株主総会に先駆けて3月にお伺いに出向き、6月にまた議案の説明に行く企業もあるそうです。
このような手間をかけなければならない状況となっているため、株主総会の担当者では機関投資家の投資を受けるのを、本音の部分では歓迎していないケースも少なくありません。(このことは以前、話題にしたことがあります)
それはそれとして、今回、視点を変えて考えてみたいと思います。結論から言えば、このような議決権行使助言会社は、会社法の精神から言って違法なのではないか、と考えられるということです。
そもそも、会社に投資し、会社の持ち分を所有しているという社員(株主)という資格を持ってはじめて、株主総会の議案を判断し賛否の投票をすることができるのです。それが、何の資格もない人の判断が実質的な投票となるということは、趣旨から言っておかしい。仮に株主が、議決権行使に際して自分一人で判断せずに、誰かに相談するとしても、個人的な範囲での相談です。相談を受けた人は、相談を受けることに対して、報酬を期待するというものではないでしょう。また、株主から相談を受けたから、助言するのであって、最初から、株主でもないのに助言の判断をするわけではありません。個人の場合には、相談を受けた人は、その株主のために助言をすることになるわけです。これに対して、助言会社は利益を得るために助言をするわけで、目的は利益目的です。だから、議決権行使の判断をする目的が違うのです。些細なことのようですが、例えば、この助言会社がある会社について助言している機関投資家の持ち株を合計すると、過半数を越えてしまう場合、助言会社の助言に機関投資家が従うことによって、その会社を支配することもできるわけです。しかも、その会社に一銭も投資することなく、です。私の常識から考えて、これはおかしい。倒錯したものに映ります。
だいたい、年金基金にしても機関投資家にしても、実際の投資判断は、そこに在籍しているファンドマネージャーが実行していて、投資した先のフォローもしているはずです。だから、議決権行使については、そのファンドマネージャーが行えばいいことです。忙しいと言われるかもしれませんが、1社の投票にどれだけ時間がかかるのか、と言われれば、その会社の経営のことをファンドマネージャーは把握しているはずなので、それほどの時間がかかるとは思えません。投資しているのですから、その程度の手間はかけて当然と、投資される側は常識として思います。手数料稼ぎの外野に、無責任な判断をされる企業の身になって考えてほしいと思います。
少なくとも、このような会社が恣意的な判断をしていないか、監視は絶対必要だと思います。公的監視機関を設ければ、そんな監視をする手間とお金はないということでしょうか。それならば、このような会社が助言をするまえに発行会社に助言の内容を報告しなければならないという義務を課すとすればいいでしょう。そうすれば、不正な助言を事前に差し止めることができるようになります。
« 没後25年 有元利夫展「天空の音楽」(1) | トップページ | 没後25年 有元利夫展「天空の音楽」(2)~「私にとってのピエロ・デ・ラ・フランチェスカ」 »
「あるIR担当者の雑感」カテゴリの記事
- 決算説明会見学記~景気は底打ち?(2020.01.25)
- 決算説明会見学記─名物経営者の現場復帰(2019.07.29)
- 決算説明会見学記~名物経営者も思考の硬直が?(2019.04.25)
- 決算説明会見学記─誰よりも先にピンチに気付く?(2019.01.23)
- ある内部監査担当者の戯言(18)(2018.12.22)
« 没後25年 有元利夫展「天空の音楽」(1) | トップページ | 没後25年 有元利夫展「天空の音楽」(2)~「私にとってのピエロ・デ・ラ・フランチェスカ」 »
コメント