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2012年4月11日 (水)

「難波田史男の15年」展(2)~自己とのたたかいの日々

Nambatajikotonotatakai 「自己とのたたかいの日々」は、連作なのでしょうか、5枚が展示されていました。1961年難波田史男が高校を卒業した翌年の作品ということになります。ものものしい題名や展覧会のパンフレットの文章、さらには、“自己との戦い 精神の戦い その中に神をやどすのだ 内部から、ひっぱりだすのだ”という当時の日記の言葉から、重苦しいものになりそうなもの。となりそうなところが、全体的に色鮮やかであることと徹底して平面的であることや、余白が息抜きのような効果をあげていて、息苦しさや重苦しさを表面的には感じさせないものとなっています。

不安定な曲線で囲まれた歪んだ不定形は、強いムラで色が塗られたり、粗っぽい塗り後がそのままに残されていて、画家がぶつけているようにも思えます。しかし、そこに表現の激しさが追及されているにもかかわらず、水彩とインクという材質の効果もあり、油彩のような塗り後が盛り上がった塊として画面上の重く残ることはなく、サラサラと流れてしまっているため、重苦しさや野生的なところは感じさせません。また、塗り残しがあることによって、余白が生まれ、油彩のような画面が厚く塗り固められてしまうことによる息苦しさから免れていて、いい意味での抜けが生まれています。それが、うまく視覚的効果を上げる結果となっています。難波田史男は、それを意識的かどうかは分かりませんが方法として生かしている、と思います。

思春期の青年が内省的な自己との孤独な戦いというと、得てして一方的な思い入れや感傷的な自己陶酔に陥って、見ていられないものになりがちです。しかし、この連作は、平面性に徹することで乾いた軽さを獲得し、作品として鑑賞に堪えるものになっていると思います。

後年の作品のような線の洗練はなく、ぶつけて線を引いているような感があり、描かれた形も後年のハマったような充実した感が未だありません。その一方で、たとえば、ここにある作品では基調となっている青色の滲む感じが鈍色の要素が加わることによって、純粋な青の濃淡で感じられる爽やかさとは異質の重さを醸し出す効果を出しています。さらに、インクの滲みが余白にスポット的に散在している。これが、色鮮やかで平面として画面構成された世界が、単に表面的で明るいキレイキレイした画面世界にとどまらない、奥行きと暗さを与えている。

この連作は、数枚の作品を後日、父親である画家の難波田龍起によってまとめられたとのことですから、おそらくそこでセレクションがなされ、このようなまとまった形のものになったと思います。結果としてですが、父親の手が加わったことで、難波田史男の処女作品として、他人の鑑賞に堪えうるものとなったのではないかと思います。一般的に言われる処女作というのとは違いますが、ここに難波田史男の作品の特徴が原初的な形で現われています。この展覧会を見ると。難波田史男のこの後の15年間の画業は、この原初的なパターンから遠ざかることなく、このパターンの中での試行錯誤と洗練と充実に費やされたと言っても過言ではないと思います。それだけ、当初のイメージの力が強かったのではないかと思います。

この後「解放された日」と言う作品が続いて展示されています。これは展示ストーリーとして、自己とのたたかいの日々の次に解放された日と順番に展示されていて、何か作っている…という感じがなきにしもあらず、です。そういったストーリーが、納得されてしまうように、一種突き抜けたような印象の作品です。この作品と「自己とのたたかいの日々」の連作との大きな違いは、余白の大胆さにあると思います。余白が大部分を占めるこの作品では、前の連作に比べて物足りない感じがする一方で、大きく開けた、いままで閉じていた空間が一気に開いたような印象をうけます。それだけ浮遊感がより浮き立つようです。多分、展示ストーリーとしては、この作品でこの時期についてひとつの区切りをつけたい、ということなのではないかと思います。「解放された日」はそれに適うだけのエポックメイキングな作品になっていると思います。

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