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2012年4月21日 (土)

吉岡英美「韓国工業化と半導体産業 世界市場におけるサムスン電子の発展」(4)

第5節 キャッチアップ過程におけるコスト優位の形成

1990年代では、韓国製DRAMのコストは日本のそれより13%も低く、その内訳をみると、人件費を除いて研究開発費と減価償却費において大きな差が出ている。このうち研究開発費は、必要な要素技術が基本的に既存の製造装置の購入により獲得できたため。減価償却費の差に関しては、積極的な設備投資による経済、すなわち、大口径ウェハに対応した最新鋭の製造装置を備えた大規模生産体制をタイミングよく構築することで、日本企業よりも投資効率を高めて拡大成長の好循環を築いたことである。DRAM市場には4年を周期とするシリコンサイクルがあることと、工場の量産体制が軌道に乗るまでに半年から1年程度の時間がかかることを前提に、シリコンサイクルの好況期に拡大する需要を十分に吸収しようとすれば、直前の不況期に設備投資を実施するのが適切なタイミングで、サムスン電子はそれを一気に行ったのに対して、日本企業はそれに遅れて景気回復期に段階的に行い、なおかつ規模の点でもサムスン電子に及ばなかった。

このように、日本企業は消極的な設備投資によりサムスン電子のキャッチアップの余地を与えたのが知られているが、それだけではない。それは、1990年代以降、製品寿命の短いパソコンがDRAMの応用製品の大半を占めるようになったにもかかわらず、日本企業は依然として10年以上の信頼性を保証するほどの高い品質に照準を定めた工程フローをDRAMの量産に適用したことである。日本企業はパソコンの特性に見合った必要最低限の品質の目標値を定めるべきところを、現実にはそれに対応せず、製造装置の調達コストを引き上げてしまった。このとき、日本企業はパソコンの特性に見合った必要最小限の品質の実現には2つの課題があった。一つ目はターゲットとする応用製品市場と品質目標を変更しなければならないが、縦割りの組織がそれを困難にしたことと、もう一つは一つ目の課題をクリアできたとしても実際の製品でそれを実現するために開発から量産に至るまで過程そのものを根本的に見直すことが、それ以上に困難だったということだ。これに対して、サムスン電子はキャッチアップ過程にあったため、求められる必要最小限の品質を確保するために努力すればよかったという、日本企業に比べて取り組みやすい状態にあった。

1990年代初め、サムスン電子はパターン欠陥検査装置を日本企業に先駆けてラインの要所要所に設置した。こうして早い時期からパターン欠陥検査装置を活用したサムソン電子は各工程での欠陥の把握が可能となり、良品率向上のための改善作業を効果的に進めることができた。これに対して日本企業は工程すべてを総花的に管理せざるを得ず、効率面で大きな差が開いた。このことは、日本企業の競争力の源泉の一つとされてきた品質管理において、サムスン電子の後塵を拝するようになったことを示唆している。日本企業がサムスン電子のような行動をとれなかった理由の一つの資金的問題に求められる。

一方サムスン電子はシリコンサイクルの不況期でも積極的な設備投資を行っていたが、不況期の投資は好況期よりも低いコストで製造装置を調達できるというメリットがある。不況期には製造装置企業は1台数億円製造装置を割引販売するためだ。また、製造装置の調達方法についても日本企業とは違った選択方法をとった。製造装置の標準仕様を原則に工程を組んだ。つまり、日本企業の場合、個別の工程で最高の処理結果を得るために特別仕様を附加する傾向があるのに対して、サムスン電子は最終製品の良品率を上げるために特別仕様が必要かどうかを徹底的に検証し。良品率に違いがないならば標準仕様を選択した。

他方では、良品率の改善コストの面でも、標準仕様の製造装置であれば製造装置企業は、装置内のゴミや汚染を一定以下に抑える責任を負う。これを可能にしたのはパターン欠陥装置の積極的な導入だったと言える。欠陥検査装置を使って各工程の加工処理結果を正確に把握できたため、欠陥が発見された工程の限り特殊仕様の製造装置を導入すればよかった。この結果、8インチウェハを月産2万枚処理する工場への総投資額を基準にすると、サムスン電子の投資額は670億円に収まったのに対して、日本企業は900~1000億円と、効率面で大きな差となって現れた。

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コメント

そりゃそうですよね。
韓国国策で韓国企業への資金補助が出て、日本技術者を裏で大量に雇い入れ、
日本部品をほとんど使い、スパイ禁止法のない日本から技術をスパイが横流し、大量の特許侵害を起こしながらコスト削減、韓国政策のウォン安誘導で日本を遥かにしのぐコスト安、輸出安で売り込み攻勢をかけ、その間に日本は『日本人とは思えない政治家や銀行トップ』の円高政策を実行中。
民主党が韓国へ便宜をかけているのは何故でしょうね?

日本人になりすます方々の本意は?さん、コメントありがとうございます。
しかし、この本を取り上げたのは、日本企業がガチンコ勝負で負けたということで、そのことを直視せず、コメントされているようなことを言って現実を直視せずに、誤魔化し続けることで自滅していった日本の半導体企業を、教訓として受け止めたいが故です。
たしかに仰ることは事実として否定できないでしょう。しかし、その10年前に同じことを日本企業や政府が欧米に対してやっていたわけで、日本企業を被害者として扱うような貴兄のコメントには賛同しかねます。

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