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2012年4月21日 (土)

吉岡英美「韓国工業化と半導体産業 世界市場におけるサムスン電子の発展」(5)

第4章 先端技術の獲得

第1節 技術能力の評価基準

第2節 模倣から技術革新への飛躍

キャッチアップ期のサムスン電子は、先行企業より一世代遅れた旧世代品の量産に取り組んでいたため、先行企業で開発された完成度の高い既存の製造装置を利用することができた。しかし、それによって生産に必要なすべての技術情報を入手できたわけではなく、半導体企業の側でもある程度製造装置を使いこなすノウハウを確立していなければならず、そのために、日本人技術顧問の指導の下で韓国人エンジニアの指導育成を進めた。この時期には組立技術を中心だったといえる。

そして、サムスン電子が先行企業に追いついたとされる16M世代以降、プロセス技術に関しては、量産を通じて蓄積した技術と経験に基づいて独自開発を進めていった。一方、デバイス技術に関しては2000年以降まで待たなくてはならなかった。

半導体産業の場合、製造装置の輸入依存はただちに技術蓄積の欠如を意味するものではないことが、サムスン電子をみると分かる。サムスン電子はシングル・サプライヤーにしないという調達方針を徹底しているのに加えて、世界で最も優れたサプライヤーと取引するグローバル調達という方針を前面に打ち出している。例えば、外観検査装置についてサムスン電子は韓国内のP社と共同で開発したが、調達はP社だけに限ったわけではなく、ヨーロッパのC社からも調達して、P社とC社を競争させている。これは供給途絶のリスクを軽減するだけでなく、サプライヤーに対する価格交渉力を保持することで投入要素価格の上昇を抑え、コスト競争力を保持するためであるとみられる。

また、グローバル調達という戦略は、すでに有用に技術をもつ韓国系製造装置企業との共同開発や取引を妨げるものではないが、外国系製造装置企業を含む複数のサプライヤーと手を組むことができる。このように、製造装置の開発・販売が国境を越えて行われると、半導体企業の技術発展に国内の周辺企業の発展が不可欠の条件ではなくなりつつあることを示している。ここから、米国や日本のような一国の自己完結的な発展とは異なる韓国の特異な発展の構図が浮かび上がってくると言える。

第3節 技術発展の要因

後発企業はたとえキャッチアップに成功したとしても先行企業を追い越そうとすれば、それまで先行企業の開発成果を学習・模倣することによって回避できた不確実性の問題に直面する。すなわち、技術の方向を正確に予測するのが困難な状況で、中長期的な視点からどの技術が将来的に有望であるかを判断し、どの技術分野にどれだけの開発資源を投下するかを自ら決断しなければならなくなる。製造業の中でも巨額の開発費と設備投資が必要とされる半導体産業の場合、先行投資に伴うリスクはそれだけ大きくなる。

サムスン電子がこのような事態にどのように対処したかを考える上で注目すべきは、1990年代に入って形成された国際半導体技術ロードマップ(ITRS)の役割である。これは、米国、欧州、日本、韓国、台湾の業界団体及び技術者の連携により作成・公表される半導体関連の技術開発の工程表である。ここでは、向こう15年間でいつまでにどのくらいのレベルの微細加工技術が必要になるかが表記されているだけでなく、そのための技術的課題が抽出されると共に、これを克服するための候補技術と現時点での達成の難易度まで明示されている。サムスン電子のようなキャッチアップを完了したばかりの後発企業にとって、ITRSは独自に技術開発を推進していくための指針として最大限に活用できた。このことは、問題を発見・定式化し、この解決策を探求し適切な解決策を選択するという研究開発過程のうち、上流の多くが世界的に共有されていたことを示している。この場合、この場合、半導体企業の開発課題は、将来技術の候補として列挙されている複数の新製法や新材料を試してどれが量産に適した技術かをいち早く見極めることに重点が置かれことになる。この成否は開発資源の動員力・組織力に規定される部分が大きく、巨額の資金を投入できる企業に潜在的な優位があることになる。

一方、先行企業一世代遅れの製品に注力する後発企業は、先行企業でデバッグがなされた完成度の高い製造装置を利用することができた。キャッチアップ期には、それによりノウハウの学習が加速された。これが革新段階にどのように移行するさいに事由ようなのは、基本的な技術体系のもとでの反復的な学習を通じて、新しい技術的知識を創出し実用化する際に欠かせない「思考の習慣」が養われることである。サムスン電子の特徴としては、できる限り旧来技術の延命を図って前世代で学習した技術的知識をより徹底的に活用するという技術戦略を採ってきたことだ。このような技術戦略によって効率的な学習が支えられ、この学習経験が独自開発につながる基礎を形作ったといえる。

次に、急速な学習及び技術革新への移行を促した組織に注目すると、技術を製品化する過程では部署間(とくに開発部門と量産部門)の有機的な結合と情報の共有が欠かせない。半導体企業では、一般的に研究所で開発された技術は量産技術を確立する技術センターを経て量産工場に移管される流れになっており、これら部署間の情報交流・共有が、製品開発から量産ラインの立あげまでを円滑に進めるための鍵を握っている。この点で、サムスン電子では、開発・量産立ち上げ作業に各部署のエンジニアを直接関与させることによって、部署間の情報交流が徹底して行われる仕組みが築かれていた。これらの組織的な仕組みに加えて、サムスン電子において部署間の円滑な情報交流・共有を図るうえで積極的な役割を果たしているのが、専務・常務クラスのエンジニアである。研究所の専務や常務会議に出席したり、あるいは技術センターの専務や常務が研究所の会議に参加したりすることにより、専務や常務に他の部署の情報が集約され、開発部門と量産部門との間で双方向のフィーバックが働くようになっている。サムスン電子と対照的に、日本企業では、開発部門のエンジニアは自らが担当する開発作業に専念し、開発された技術が量産部門に移管されると仕事が完了するというように、同じ世代内でも異なる世代間でも部署間でも情報のフィードバックを働かせる組織的な仕組みは殆どなかった。

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