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2012年5月16日 (水)

あるIR担当者の雑感(63)~信託銀行って本気で仕事しているの?

私の勤め先では、自己株買いをやってきて、その結果保有自己株数が大きくなってしまいました。実は、筆頭株主が自己株なのです。消却をという意見もありますが、取敢えずは帳簿上は保有していても消却したと同じ扱いなので、そのままにしてあります。財務担当役員は、この対策に頭を痛めているようで、先日、従業員持株ESOPというスキームをやることに決めました。一応、取締役会で導入の決議をしてリリースまでしました。

このスキームに対しては、担当者個人としては疑問を持っていますが、勤め先のことなので、これ自体については言うことはしません。ただし、この目的として従業員持株会の活性化ということが挙げられます。従業員持株会を活性化させたいというのは、その会社の従業員が会社の株を積極的に買おうとしないということで、従業員から見て会社に魅力を感じていないということになるわけで、IR担当者としては、反省すべき課題であることに間違いありません。だから、本筋から言えば、従業員にとっても株を買いたいと思えるような会社、経営にすることが、本来から言えば会社としてすべきことと言えます。

さて、前置きはこのくらいにして、この従業員持株ESOPはすでに上場会社が数社やっていて、証券会社や銀行、そして信託銀行がこのスキームを開発し導入させていて、今回は、数社の競合があって結果的に信託銀行に依頼することになりました。その信託銀行は大手の信託銀行で、私の勤め先の会社では企業年金や株式事務の代行を長年にわたって委託しているところです。だいたいこのようなスキームは、実際のところ、どこの競合会社のものを取って見ても、どこも似たり寄ったりで、大きな違いはなく、選定の決め手になったのは手数料が一番安いところでした。いわゆる、受注をめぐり値引き合戦となり、一番安くしたところに発注してというわけです。どこかで、似たような状況を色々なところで見ているような気がします。

それで、その後、私も、事務上の実務に関わるので、その信託銀行の担当者と話をする機会がありました。その時に、驚き、呆れたので、今日は、そのことを書きます。彼らは、本気で仕事をしているのか。

先ず第一に、営業担当者と話した時のことです。売込みは役員に直接行われたので、私は関わっていません。取り敢えずスキームの説明をしてくれましたが、先ずその担当者が内容を理解していないことは、説明の口調で分りました。マニュアルの言葉を暗記しているだけのことは明白で、自分の言葉で話していませんでした。まあ、一応複雑なスキームなので仕方ないかもしれないと思いながら、それが、私の勤め先の会社にとって、どのようなメリットがあって、どのようなリスクがあるのか。その担当者は、説明できませんでした。勿論黙っていたわけでなく、そのスキームのメリットやリスクというものは、説明してくれました。セールス・マニュアルに書かれてある一般的なものに限っては暗記している説明はしてくれました。しかし、それ以上のこと。つまりは、その信託銀行は20年以上に亘って株式事務の事務代行をやっていて、私の勤め先の会社の株主構成の特徴やその変遷、これまでの会社の資本政策やその効果を全部見てきているはずで、現時点での会社の特徴や課題、そして、いままでの経緯などを全て把握しているはずです。そのような情報を基に、他の会社ではない、私の勤め先の会社が、どうしてこのスキームを導入することを薦めるのか、それに具体的にどのようなメリットが見込まれるのか、例えば、単純に、買った自己株を売るわけですから単純な収支を出せるはずです。リスクに関しても具体的な話ができるはずです。しかし、担当者は話すことが出来ませんでした。そればかりでなく、私の質問の意味が理解できないようでした。つまり、担当している顧客である会社のことを何も知らないから、そういう発想が出てこないようです。もし、担当している顧客のことを知ろうとする人なら、そもそもESOPのようないかがわしいものを売りつけようとは考えないだろうし、仮にセールスした場合でも、これ単独ではなくて、資本政策の視点から、ESOPと絡めていくつかの施策を複合的に実行していくように、スキームを紹介していくと思います。

私の勤め先はメーカーで、市場での競争になった場合価格競争に巻き込まれないように、付加価値をつけることに必死になっているのですが、この信託銀行の担当者は付加価値をつけるのに絶対的に有利な環境にあるのに、それを無視して価格競争で買ったことに嬉々としているように見えました。私から見ると、本気で仕事をしているように見えません。この人はただ与えられた動作を指示通りにやっているだけで、昔の言葉で言えば、ブルーカラーのワークをしているにすぎません。たぶん、この人は一生懸命やっているつもりなのだと思います。

次に、第2の点です。この事務に関して、事務担当者である私を含めて何人かの担当が、信託銀行の担当者から事務手続きの説明を受けました。説明は、もう何社も売り込んだ経験があるせいか、流暢な説明でした。そして、質問の時間になると、担当者が回答できないということが頻出しました。私の勤め先は小さな会社なので、事務部門の要員は少なく、一人でいくつもの業務を兼任します。だから深い知識はないものの、多岐にわたって業務を経験しているのが特徴です。例えば、このスキームの場合、株式にかかる会社法や金商法上の事務手続きや税務、税務といっても会社としての法人税や従業員個人の所得税、あるいは給与計算とセットで考えれば源泉徴収や年末調整、社会保険と関係してきます。それらについて、複数の分野にまたがる質問に対しては、まったく答えられないのでした。かれらは、それぞれの専門分野にたいしては、回答マニュアルがあって答えられるのですが、現場は各々の会社に特有の手法等があり、その現場の実務上の事情から出てくる質問には対応できないようでした。ても、現場の実務担当者にいわせれば、実際に現場でやるに当たって一番聞きたいことなのです。結局、現場で考えるしかなかった、というのが実感です。

たんに、この2点だけを取ってみても、顧客のことを考えて仕事をしているのか、と尋ねてみたくなります。たまたま、私が接した、この信託銀行の人がそうだったからといって、全部がそうだとは限りません。ただし、私が何人かあった人たちは、みな本気で仕事をやっているようには見えませんでした。

これは、単なる言いがかりでしかないのか、私には客観的にどうだとは言えません。しかし、失望したことは確かですし、このような人たちと、一緒に仕事をしたいとは思いません。また、私がこのようなことを書いているからといって、これは自分にも当てはまるところがあると多少の自己懐疑を含めてかいているので、このようなことに対して、自分のことを棚上げして、こういうのは嘆かわしいなどと安易に共感してしまうひととも、一緒に仕事をしたくない。なんか、こんなことを書いていると、私が嫌な奴であることを、自ら公言しているようですね。

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