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2012年5月30日 (水)

あるIR担当者の雑感(65)~株主総会の報告事項って変だと思わない?

私の勤め先は中小企業なので、事務職はいくつもの業務を兼務でやっています。私も、IRだけでなく株主総会に関することもやっています。だから、今の時期は決算、説明会、株主総会と続けて大きなイベントが続きます。そのため、話題がたまにIRとも関係が薄いところにも飛んで行ってしまったりします。

今回の表題を見て、何のことか?と思う人もいるかもしれません。株主になったことがある人なら定時株主総会の時期、多くの会社は毎年6月に株主総会の招集通知が送られてきます。その表紙、あるいは次のページに招集通知として、株主総会の日時や場所とともに会議の目的事項が印刷されています。会議の目的事項とは、いわゆる議題です。何のために会議を開くかというと何かを決めるためです。だから議題が目的ということになります。そして、招集通知を見てみると、会議の目的が決議事項と報告事項に分かれています。決議事項は議題です。では、報告事項というのは、とくに決めるわけではない、報告ですから、単に説明があって、それを聞くだけです。出席者は議事に参加するのではなくて、単なる聴衆にとどまります。で、何を報告するかというと「第○期 事業報告の内容、連結計算書類の内容並びに会計監査人及び監査役会の連結計算書類結果報告の件」とかいうことが印刷されています。言うなれば決算報告です。

と、ここまで説明を読んで、一般的な会議のイメージでちょっと違うと感じられた方もいらっしゃると思います。町内会でもクラブでも、国会もそうですが、たいていは、団体の総会というような会議の場合、一番大事な議題というのは、ほとんど全部で、年次の予算と決算の承認なのです。みんなのお金をどのように運営していくか、また、この1年間の運営の結果はどうであったか、ということはその団体の活動にとっていちばん基本中の基本です。それを参加者全員、あるいは代表が集まって議論して、その決議に従って、係が実際に運営していくわけです。それが株式会社の総会では報告されるだけで終わってしまう。これは、会社に対する権利者である株主から見れば、一番大事な議論から除け者にされていることになっているわけです。法律で、そう決まっているので、どの会社でもそうしていますが、一般常識から考えておかしいと思いませんか。

とくに、会社の不祥事が最近も大きい事件が起こって、コーポレート・ガバナンスという横文字がよくマスコミを賑わしているようなときです。企業は社外取締役をいれろだの、経営陣の専横を抑えなければならないだの、株主を向いた経営がされていないだの、色々な議論が為されていますが、そもそも、株主が会社の事業の一番基本的な事項である、予算や決算の決定から除外されているのは、おかしいと思いませんか。例えば、国会で予算や決算の委員会というのは国会議員にとって一番の花形で、これを単に報告だけで済ますなどということになったら、官僚の好き放題を許すのかという議論になると思います。これに対して、投資をしている株主が、その投資先経営者に一番基本的な事項を任せきりにして、議論から閉め出されてしまっている。

これは、経営者の側から言えば、株主が決算の否認という伝家の宝刀を持っていないわけですから、こんなに安心できることはありません。不祥事のあった大会社の株主総会で質問や追求が為されて議論が荒れることがあっても、最終的には決算や予算は報告されているわけです。もし、これが決議事項であったら、決算や予算が承認されない限り事業を進めることができないはずです。たとえば、最近の国会は予算の成立が遅れますが、そうすると公共事業等は実行できないのです。だから、株主総会が何時間かかっても、怒号にあふれても、経営はそれとは無関係に動いているのです。

しかし、これは歴史を遡ると最初からそうだったわけではないのです。今でも未公開の小さな会社では株主総会で決算承認が議題となっているのです。もともとは株式を公開している大会社の株主総会でも、決算承認は総会の基本的な決議事項でした。それが、今から30年以上前のことです。当時、総会屋とよばれる人たちが跳梁跋扈していました。彼らは企業を相手に色々に仕掛けをして稼いでいましたが、その代表的なものが株主総会を成立させ無くしてしまうといって、企業を恐喝するのです。そのとき、一番使われたのが決算承認の決議でした。要するに決算とは会社の1年間の事業活動の結果が数字となって現れたことなので、不祥事や会社のことを何でも質問できるし、追求できるのです。それに対して、納得できないから決算は承認できないという方向に総会の議論を持って行ってしまうのです。これは、会社の経営者にとって頭が痛いことだし、一般の株主にとっても迷惑なことでした。総会屋が株主総会を荒らすのは会社の問題点を指摘して企業活動を改善させていこうという目的ではなくて、経営者を困らせて後で金銭を脅し取ることが目的なのですから。それで、正当な企業活動に支障をきたすことがあっては、株主にとっても不利益です。そういう建前から、実際には経営者がやりにくくてしょうがないので、なんとか株主総会から決算承認を除外させようとして、報告事項という変なものが出てきたわけです。だから、旧商法の条文では、決算承認は原則として総会の決議事項とされていたのです。それに対して特例法という特別法をつくり、一定の手続きをへて総会で報告されれば、総会で決算承認を受けなくてもいいということになったのです。そうなれば、それは経営者にとって都合のいいことなので、すべての会社が右へ倣えでみんなやりました。そして、いつしか世帯交代により、それを当然と思う人々が現れた、というのが現在につながっている。

私は企業の側の担当者であるので、決算が報告事項であるのはありがたい限りですが、多くの担当者はありがたいとも思わずに、そのことに疑いすら抱いていません。最近の株主総会はIRの考え方を入れて、株主の質問に丁寧に答え、開かれた総会を目指す、ということになっています。が、株主の基本的な権利を認めないで、結果の決まった総会で、いくら質問に丁寧に答えても、本気で株主に向き合っているのか、と問われて、何と答えるでしょうか。また、コーポレート・ガバナンスという名目で色々な議論が行われていますが、株主が自分で会社の決算を承認する、といういうなれば一番正統的なことが議論の俎上に乗らないというのは、何か釈然としないです。そもそも論というのが、企業とはどういうものかという本質論では、なからず触れてくる議論だと思いますが。

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