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2012年5月 6日 (日)

渋谷克美「オッカム哲学の基底」(8)

第六章 代示に関する、偽リカルドゥスとオッカムの議論

(一)代示に関する問題

偽リカルドゥスは『オッカムを反駁する論理学書』の中で、議論する。

‘単純代示が代示するものを、心の外に存在するものを、心の外に存在する普遍的な本性・形相ではなく、心の中の観念であろう’とオッカムが変更したことに関連して、「人間は被造物のうちで最も優れたものである」という命題について、次のような問題が生じる。この命題の主語「人間」は、いかなる代示を持つのか。「人間は走る」という命題のように個物(この人間、あの人間)を代示する個体代示を行っているのではない。なぜなら命題は、単純命題「この人間(ソクラテス)が被造物のうちで最も優れている」あるいは「あの人間(プラトン)が被造物のうちで最も優れている」という事を意味しているのではないからである。この命題は、‘この人間が他のどの人間よりも優れている’ということを含意してはいない。むしろ、この命題が意味しているのは、‘人間というものは、人間以外のどの被造物よりも優れている’ということである。従って、この命題の主語「人間」は単純代示が心の観念を代示しているとしたら、この命題は偽である。心の観念が被造物のうちで最も優れているとは言えないからである。では、命題の「人間」という語は、一体何を代示しているのか。 

また「色は視覚の第一の対象である」という命題に関しても同様の問題が生ずる。この命題の主語「色」が、この色やあの色といった個々の色を個体代示していると考えることはできない。なぜなら、「この色が視覚の第一の対象である」「あの色が視覚の第一の対象である」という命題はいずれも、偽だからである。さらにまた、「色」が心の観念を代示すると考えることもできない。観念は、目に見えるものではないからである。だとすると、この命題の主語「色」は、それらとは別の何か、すなわち、個々の色に共通な普遍的な形相・共通本性を形相代示していると解すべきなのか。しかし、視覚の第一の対象は個々の色であって、普遍的な色ではない。

(二)これらの命題の主語の代示の問題に関する、オッカム以前の伝統的な説

初期の代示の理論以来、命題「人間は被造物のうちで最も優れたものである」の主語「人間」は、個々の人間(ソクラテス、プラトン等)が共通に分有している普遍的な形相あるいは本性を代示しており、単純代示を持つと考えられてきた。

単純代示は三通りの仕方でありうることが、注意されるべきである。語は三通りの仕方で、その表示するものを代示することが可能だからである。(一)ひとつは、個物とのいかなる関係も示すことなしに、その表示するものを代示する場合である。(二)いまひとつは、個物との関係において、その表示するものを代示する場合である。さらに、このことは二通りの場合がある、(a)ひとつは、表示された普遍的な種の本性が現実に各々個物の内に保持され、個物に述語づけられる限りにおいて、語がその表示するものを代示する場合である。(b)いまひとつは、表示されたものが一般的に、未確定な仕方で度のものとも関わるが、しかし特定のものと同一ではない限りにおいて、語がその表示するものを代示する場合である。

また、「色は視覚の第一の対象である」の主語「色」の代示に関して、「色」は、個々の色に共通な、心の外に存在する普遍なるものを代示すると主張する。

(三)これらの命題の主語の代示の問題に対するオッカムの解答(1)

オッカムは、「人間は被造物のうちで最も優れたものである」の主語「人間」の代示の問題を、‘個物は普遍的な本性よりも、より完全である’という個体優位の思想に基づいて解答しており、このようなオッカムの解答は、12世紀以来の伝統的な考えとは全く異なっている。

オッカムは次のように主張する。もし、先の主張のように、「人間は被造物のうちで最も優れたものである」の「人間」という語が、心の外に存在する普遍的な形相・共通本性を代示するとしたら、この普遍的な人間の形相・本性が被造物のうちで最も優れたものであることになる。しかし、これは偽である。なぜなら、個物(例えばソクラテス)は、人間の形相・本性という完全性を有するだけでなく、さらにまた、個体としても完全性をも有しているのであるから、ソクラテスやプラトンといった個物のほうが、普遍的な人間の形相・本性よりも優れているからである。この個体優位の思想は、彼等自身の考えであり、それゆえ彼らの議論は彼等自身の考えと矛盾する。むしろ、この命題の「人間」という語は個体代示を持つのであり、文字通りに解されるならば命題は偽である。

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