あるIR担当者の雑感(72)~アナリスト・レポートを書いてもらうために(6)~会社に魅力を感じるとは?
アナリストが、ある会社に関するレポートを書こうと思うのは、その会社に投資対象としての魅力を感じるということから、それを投資家に推奨するために書こうとする、というのは、仮説です。学問として考えると仮説は検証しなければならないことになりますが、ここは論文ではないので、このことをスタートに、あれこれと考えて行きたいと思います。
この場合、会社に魅力を感じるとはどういうことか。投資とはとか、投資の目的などということには、様々な議論があると思いますが、ここでは単純化して、投資はまとまった資金を投入し、それ以上の見返りを得ようとする行為、と考えことにします。ざっくばらんに言えば、儲けの追求です。しかも、まとまった金額の。
ということは、投資をする人にとって魅力的な会社とは、端的に、儲けさせてくれる会社と言うことになるはずです。しかし、この投資で儲けると言っても、様々な儲け方があります。大量の手持ち資金をもって、日々刻々動く株式市場に一瞬生じる株価のギャップを瞬間的に発見して大量の売買をすることにより、差額を稼ぐやりかた。これは会社そのものと言うよりも市場の動きのすきを突くような儲け方で、こういうものに対してはアナリストの企業レポートは必要ありません。こう考えると、投資をする人たちの儲け方はいろいろな方法がありますが、アナリストが企業レポートを書くのはそれらの内の一部の儲け方をする投資家に向けているということが分かります。投資家の中には、大きく二つに分けて、上で書いたような人たちを典型とする市場の動きに注目して利ザヤを稼ごうという人々と、株式を発行する企業を見て、その企業が成長することに伴い株価が上がっていくのを待って、見返りを得て行こうとする人々です。人によっては両方のやり方を使い分ける人がいたり、全く別々とは言えないし、企業の成長を見ていても、売買のタイミングは市場の動きをみるというようなハイブリッド型の人もいると思います。どちらが多数派とも主流とも言えません。しかし、アナリストの企業レポートが必要とされる間は、このうちの企業の成長を見ていくタイプと言うことになります。
つまり、アナリストはレポートでこれから成長しそうな会社を紹介しているわけです。それも、新しい会社の場合もあれば、いままで諸般の事情から成長していなかった会社が何かのきっかけがあって今後成長しそうだというケースもあるでしょう。ジャスダックなどの新興市場に属する会社でレポートを書いてもらっている会社は、こういう部類によく当てはまる例でないかと思います。しかし、誰が見ても一目瞭然で、この会社は成長する、あるいは、そのことを多くの人が認識している場合には、アナリストがレポートを書いても、あまり必要性は感じられないでしょう。
ということは、アナリストがレポートを読んでほしいとする投資家とアナリストとあいでは魅力の感じ方にずれがあり得るのではないか、ということです。とくに株式市場では、成長している会社でもみんなが注目して株式を買っている会社よりも、まだそのことに多くの人が気づいていない会社の株を買った方が儲けは大きくなることでしょう。アナリストが、とくに新興市場の会社をレポートで取り上げようとする場合、そういう魅力を感じてということが典型的なのではないか。勿論、成長の度合いにしても長い時間をかけて少しずつ成長していくものから、あっという間に拡大してしまうものまで様々なパターンもあるでしょう。この辺りのパターンなどについてはアナリスト個人の性格や志向その他によって、魅力を感じるかの個人差はあるでしょう。しかし、一般的な傾向はこういうものに近いのではないか。
さて、これまでは分析で、分析だけで終わるなら論文で、ここでは実務者が書いているわけなので、それではどうするかという実践を考えてみたいと思います。
ここで、最初に冷厳たる事実として、そもそも成長の可能性のないのがあきらかな会社は、IR担当者が何をやっても無駄だということです。もし、成長しないのに成長すると言うことは市場に対して虚偽表示をすることになるので処罰の対象となってしまいます。しかし、それではIRは無力なのか。ここで、実際の会社のことを考えてほしいと思います。成長する可能性のないのが明らかな会社なんてあるのでしょぅか、もしあるとしたら倒産寸前の会社くらいなのではないでしょうか。そもそも、そういう会社はIR活動なんかやらないし、かりにやっていたとしてもアナリストにレポートを書いてもらおうなどと本気に考えないでしょう。ダメに決まっているのですから。たしかに、今、低迷していて、出口の見えない会社もあるでしょう。でも発想を変えれば、出口が見つれられれば低迷を脱却できるかもしれないのです。もし、その会社が真剣に出口を探しているなら、そのことをアナリストに伝えればいいのではないかと思います。可能性としては低いかもしれませんが、可能性であることは間違いないのです。少なくとも、その会社には可能性がある。それに向けて真剣に努力している。普通程度の想像力のある人なら、そういう真剣に努力しているのが本当なら、その会社は現状に危機感を持っていることとか、会社の置かれている状況を理解しているということが想像できるわけです。大企業の細分化された仕事をしている人ならば、IRはそんなことまでやるのか、と違和感をもたれるかもしれません。しかし、会社を外部の市場関係者に説明しようとする場合、細かな事実だけでは物足りず、どうしても経営者の目線で、この会社はこういうものだという説明をせざるを得ないと思います。
後半の実践を考える部分は掘り下げ方が足りなかったかもしれません。何せ、私自身ひとつの会社の経験しかないので、一般論として考えていくには、力が足りないのかもしれません。
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