あるIR担当者の雑感(73)~ハピネスを届けたい、その後
ちょうど1年前、オリエンタルランドの株主通信について、ここでコメントをしました。東日本大震災とその語の津波被害、そして原発の事故とその影響によって国土の広大な地域が甚大な被害をうけ、多くの人々が避難生活を強いられる状況で、東京ディズニーランドも被災し、実際に被害を蒙り営業を休止せざるを得なかったという差し迫った中で、事業のあり方について真剣な議論が行われたのでしょう。そこで、見開きのページを割いていた「ハピネスを届けたい」というメッセージは、他の会社の株主通信には見られない迫力があったと思います。オリエンタルランドの個人株主であろう人が、ブログでそのことを書き込んだりと、それなりの反響はあったのではないかと思います。
私自身も、オリエンタルランドの株主ではありませんが、ホームページで閲覧し、このブログでコメントを書きました。ただ、同じ株主通信に携わる担当者としては、会社として真剣な議論が交わされたのなら、もっと株主通信を「ハピネスを届けたい」で徹底して作り込んでもよかったのでは、と書きました。しかし、それはこの株主通信を否定するものではなく、それを実行した企業と、担当に対しての敬意の表われのつもりでした。そして、1年後の株主通信がどうなるのか楽しみにしていました。実は6カ月前の秋冬の株主通信で、そのことが消えてしまっていたので、少し落胆しつつ、1年後はその総括があるだろうと期待していました。
しかし、何もありませんでした。私は、オリエンタルランドの株主ではないので、こんなことを言うと無責任になるのかもしれませんが、真剣な議論を社内で繰り返し、敢えて、2ページをつかって「ハピネスを届けたい」という企業の原点を再確認し、それを株主に対して大きくアピールしたあと、その原点を再認識した活動は具体的にどうだったのか。例えば、施設が事故があって営業を休止せざるをえなかったことが報道されたこともあって、「ハピネスを届けたい」ということが再び問われたのでしないか、と思われるのです。これは安全対策を徹底しましたと言うことだけにとどまることでないような気がします。というのも、1年前に「ハピネスを届けたい」というのは、株主に対して企業の理念を敢えて真剣に打ち出したのは、その理念に対しての賛同とか共感を求めたものだったのではないか、と思ったのです。株主総会を中心に株主対策の業務をしているとファン株主作りなどという施策が手段としてありますが、株主通信であそこまで高らかに謳い上げたのは、そういう小手先のテクニックにとどまらず、「ハピネスを届けたい」という理念に共感して、経営者と株主も共に、その理念の実現に向けて手を取り合って行こうというマニュフェストのようなものだったのではないか、と思ったのでした。だから、それに対しての、どうだったのかというのか、ということが1年後の株主通信の中で、経営者のメッセージの中で一言でもあってほしいと思って読んでみたのですが、残念なことに「ハピネス」の言葉は消えていました。私は、そこで「ハピネスを届けたい」に対してのオリエンタルランドの本気度がはっきり現れる、それを株主が見ている、そして、そのことを誰よりも言った企業自身が自覚していると、少なくとも、そういう株主通信をつくった担当者は一番認識していると思ったのですが。だから、何かしらあるのではと探してみました。
もとより、私の個人的な思い入れでしかなく、オリエンタルランドは順調に経営を継続させており、ベストを尽くしていると思われるので、何も批判されるものではありません。しかし…、と思ってしまうのです。
株主通信って何なのでしょうね。作っている本人が、こんなことを書くと不謹慎に聞こえるかもしれませんが。自社の株主通信の参考にと多くの会社の株主通信をインターネットで見てみると、何のために作っているのか分らないものが沢山見つかります。私の作っている株主通信もそういうものに入ってしまうかもしれない、思うとちょっと懐疑的になってしまいます。
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