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2012年7月24日 (火)

あるIR担当者の雑感(75)~アナリスト・レポートを書いてもらうために(7)~相手にしてもらえるために

IR担当者は、IRの様々なツールの作成を業務の一つとしています。中には、それがIRのメイン業務となっている担当者や企業もあると思います。また、IR支援会社のなかには、説明会資料とかアニュアルレポートとか会社案内とかホームページ、また最近ではSNSツールの制作やこのコンサルティングを中心に行っているところも多いと思います。私自身も、ツールの作成が業務の中で占める比重は決して軽いものではありません。折角作るのですから、良いものを作りたくなるのは人情です。しかも、これまでにアナリストに興味を持ってもらうだの、会社の魅力を理解してもらうだの、つらつらと書いてきましたが、そのためには量的にも、質的にも情報をできるだけ提供することが必要だし、そのためにツールは有効、もっといえば必要なものと言えます。だから、一生懸命に作ります。それは、これまで述べてきたことです。

しかし、ここで実際に感じていることは、それだけ一生懸命に作ったツールを、果たしてどれだけ見られているのでしょうか。つまり、企業が一生懸命ツールを作って、「はいどうぞ」と差し出しても、差し出された側は相応の対応をしてくれるとは限らないと言うことです。当然と言えば、当然のことですが、何か企業の側にとっては実も蓋もないこのように思われてしまいます。

でも、自分の生活のことを考えれば、我々の身の回りには絶えず沢山の情報が駆け巡っています。例えば、自宅でテレビを見ていればCMで企業や商品の宣伝情報が洪水のように繰り返し流れてきます。それらを私は、漫然と流していると言っていいと思います。作り手が一生懸命CMを作っていても、だから何だというわけです。それは情報の洪水のなかで処理しきれないというのか、無意識のうちに選択をしていて、選択に漏れたものは躊躇うことなくバッサバッサと切り捨てているのだと思います。同じように、アナリストだってウォッチしている企業が何十とあり、興味を持っているのはそれ以上、さらに頼まれなくても企業の方から一方的に情報が送られてくる。そんな中で一つ一つの企業のツールを全部丁寧に見ている時間的余裕も体力もないでしょう。

としたら、そこで切り捨てられないためには、どうしたらいいか。そこにIRの戦略と言うものがあるのではないかと思います。よくIRの支援会社の売り文句やセミナーに戦略的IRと謳われていることがありますが、そういう戦略は提示されたことがありません。このようなときに提示されるのは、説明会資料、アニュアルレポート、ホームページといった各ツールを見易くしようというものだったり、インターネットで紹介ページを作ってそこでまとめて紹介しようといった程度です。これらは、興味を持った人が見ようとして、ある程度積極的に動いた時には、有効に機能するでしょう。しかし、ここで考えているような場合には、役に立たないと思います。

ここで、IRではなくてPRの方で、広告の戦略というときにひとつのモデルとして、このようなことを考えます。仮に、私が今このプログで書いていることをまとめて本にして出版したとします。これを売ろうとするときに、これは素晴らしい本だからといってテレビ等で大々的にCMを打って宣伝して、果たして効率がいいと言えるでしょうか。まず、このような本の読者とになりそうな人がテレビを見る機会が多いのか、たとえ見たとしても有効に情報として伝わるのか。つまり、CMを見て書店に行く人がどれだけいるのか、ということです。実際に、この本を購入するモデルを考えてみましょう。このような内容の本を読むのはIR担当者とかそれに関係する人びとでしょう。しかし、その人々のすべてが読むとは限らないでしょう。Aさんはある会社でIRの部署にいて未だ経験は浅いのですが、説明会の参加者が減少気味で、そういう状況に問題意識を持っている。とういう時にたまたま、インターネットか新聞か何かでこの本があることを知った。その時は、そういう本もあるのかと言う程度だったが、その日の夜、友達と待ち合わせをしていて、ちょっと時間があるので書店の寄ったら、その本があった。その本かと思って手に取って立ち読みしてみたら、内容が今感じている問題意識に沿うものだったので買った。というのがひとつのモデルではないかと思います。これは、モデルとして単純化していますが、それでも様々な要因が複合的に作用して、Aさんが購入に到ったということが分かると思います。単純にいい本が出ましたと宣伝するだけでは、この単純なモデルにも届かないということです。簡単な分析をしてみると、まず商品である本に対して、ある購買のターゲットが限定される。そのターゲットに目に触れる宣伝の媒体を選択することがある。ターゲットをしぼってもそのターゲットが皆、無条件に興味を持つということはない。興味を持つ下地というのが必要だと言うこと。Aさんは自分のIRの現状に問題意識を持っていたというのが、これに当たります。そして、タイミングです。問題意識を持っている時に宣伝に触れて、宣伝が素通りせずに頭の片隅に残った。それに加えて、記憶が残っているうちに現物に触れて、「ああそういえば」と思い出すことができた。この他にも、要因が出てくるのでしょうが。ここでは単純化させて、これだけにとどめておきます。このようなときに、宣伝の戦略として、IRの現状に対して担当者向けに問題意識を煽るようなセミナーを企画する。そして、インターネットとか日経新聞、あるいはIR担当者がよく読みそうなビジネス雑誌に広告を出す。そして、IR担当者がよく立ち寄りそうな書店、大手町、兜町、日本橋などのビジネス街の書店で発売キャンペーンをうったり、平積みにして見えやすいところにおいてもらう。等のことを連動させて販売促進をしていくことになるでしょう。

これをIRにそのまま当てはめるというわけにはいかないでしょうが。説明会資料、アニュアルレポート、ホームページ、SNSなどのツールが、それぞれ別個に、とくに連動するでも、役割を分担するでもなく、ただ単に単発で打ち出されています。さっきの宣伝で言えば、テレビでCMを大々的に打つのと同じです。

せっかく苦労してつくったツールを見てもらうために、どのような経緯でツールに触れようとするのかをモデルでもいいから想定してみて、様々なツールの特性を生かして連動させていくことによって最終的にはツールに触れるところまで誘導するというような戦略的な動きというのをIRで考えることは出来ないでしょうか。とくに、知名度の低い中小企業の場合は、アナリストや投資家の興味を多少、強引にでも持ってくる必要があるのです。さっきのモデルのときに触れましたが、興味には下地という環境とか雰囲気が必要なので、新興市場でとか、IRコンサルの会社が数社をまとめてとか、一つのムーブメントにするような提案を考えてくれないものかと、その程度のことで、市場の活性化にも寄与するように思うのですが。

ただ、私は一つの会社が単独でやるにしても、説明資料とホームページとを連動させたりとか、互いに補完的な機能をもたせて、それぞれが得意な点をもっと伸ばす、これによって相乗効果を生み出すということは出来るのではないかと思います。具体的なことは、別の機会に考えてみたいと思います。

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