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2012年7月 9日 (月)

バーン・ジョーンズ展─装飾と象徴─(3)~「フローラ」

Bjflora 古代ローマの花の女神を描いたこの作品は、95×65㎝のサイズと大作でもないのに着手から完成まで16年の年月を要したとされるものです。もっとも、16年の間、この作品だけを描いていたわけではないでしょうから、他の作品を描きながら中断を挟み結果的に時間がかかってしまったものなのでしょう。

前回、画家から感じられる狂気ということについて石井隆というまんが家の名をあげました。ここでは、その辺りのことを話したいと思います。

この作品では、フローラと言う花の女神が、軽やかなステップを踏んで種を蒔くと、指先を離れた金色の種子は地面に落ちるやたちまちのうちに花を咲かせる様が描かれています。その中で、左手の指先から金色の種子が離れ、蒔かれる描き方です。この画面では分かりにくいと思いますが。それこそ種子の金色の一粒一粒が種子として細かく描き込まれています。画像で見ると金色の点か霞のようにしか見えないでしょうが、実際にみるとしっかりと描き込まれているのです。その種子が地面に触れて芽を出し、根付き、花を咲かせるまでの細かな点が、蔓の一茎も葉の一枚もなおざりにすることなく描き込まれているのです。小さな画面のほんの一部で、種子は点か霞のようにすればそれらしく見えると、途中のプロセスはざっと書いてチューリップの花を数本かけば、それなりの体裁は整うところであるのに、画家はその全てのプロセスを執拗に描き込んでいます。前に紹介した「いばら姫」でも野いばらの花や蔓を省略することなくくっきりと描き込んでいました。この辺りの細部への不必要とも言えるこだわりには、画家の執念のようなものを感じます。細部に神は宿るとは申しませんが、一点を疎かにしないというのか、おそらくバーン・ジョーンズと言う人のもって生まれた性分のようなものなのでしょう。それはスケッチを見ると、その描き込み方がさらによく分かります。実は、バーン・ジョーンズのスケッチは完成した作品以上に画家の特徴が出ているとおもわれます。その細かな描き込み方において、とくに。

ここで、参考として石井隆の画像を見ていただきたいと思います。これも画像ではよく分からないかもしれませんが。髪の毛の描き方を見てほしいのです。実は、この人は髪の毛の一本一本を執拗に描いているのです。その過剰さが画面に異常な迫力を生み出しているのです。普通のまんがでは髪の毛の黒い部分は塗りつぶしてしまうものですが、このように描くことによって、髪の毛の乱れが実体として存在感を持って迫ってきます。その髪を持つ当の女性がページ全体にアップとなって見る者に迫ってくるのです。その存在感がまんがの枠を超えてしまうほどで、この存在感が石井隆というまんが家の大きな魅力であったことは確かです。現在、石井隆はまんがを描くことを辞め(こんなことを、いつまでも続けていたら体が保てないでしょう)、映画作家として秀作を発表し続けています。

Bjisii_2 さて、バーン・ジョーンズの作品ですが、このような細部の背景があって、女神フローラの衣服のふわりとした触感や濃紺のストールが風に巻かれる様子、これに対比的に種を蒔く手の腕の柔らかな触感の描き分けといった、触感的な描き分けが制作に時間を要した理由かもしれません。そして、そのような触感の描き分けによって、赤い衣服を通して豊かな臀部がそこはかとなく暗示されているが分かります。透けて見えるのではなくて、材質の違いにより、その形がなぞられているのです。そこにエロスを感じるというのが、私にとって、この画家の魅力の大きな部分です。

そして、これだけ丁寧に描かれている割には、女神の表情が虚ろで活き活きとした生気が感じられないのです。顔がつくりものめいているといえばいいのでしょうか。スケッチをみると、さらにハッキリしているのですが、よくよく見てみると絵画的というよりもまんがとかアニメの類型的なヒロインの顔に似た感じを受けてしまうのです。

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コメント

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

履歴書の作成さん。どうもありがとうございました。無知を承知で素人なりに好きなことを書いてます。よかったら、また感想を寄せてくだされば、たいへん嬉しく存じます。

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