あるIR担当者の雑感(80)~個人投資家向け説明会の試み(4)
前回は、説明会の存在を個人投資家に伝えるための手段として、時間をかけて口コミでのひろがりに期待するということでした。たしかに不確かで、雲を掴むような話かもしれません。しかし、口コミと言えば現実味はないかもしれませんが、これがメールやインターネットを通じてということになれば、現実味が出て来るのではないかと思います。とくに、FacebookなどのSNSはスマートフォンの普及も追い風となって、若い人たちに限らず中高年でもアカウントを登録して、ネットワークを作っています。その中で、投資を目的としたネットワークがあるというには可能性が十分考えられるでしょう。このことについては、以前にも、このブログでも書いたと思います。
前回、突然言い始めたように見える口コミですが、実は、こういうネットワークを考えています。私の勤め先は、個人投資向け説明会のターゲットを、このネットワークに向けて考えています。だから、このネットワークを利用するのではなくて、このネットワークに繋がりたいと考えています。それが説明会の大きな目的でもあります。ネットワークを利用することとネットワークに繋がることとは、大きな違いはないだろうという意見もあるかもしれませんが。違います。説明会の集客ということだけを考えれば、大きな違いはありませんが、説明会を通じて会社を理解してもらう、あるいは会社と投資家とのコミュニケーションを広げようと考える場合には、全く違ってきます。利用するということは一時的なものですが、繋がるというのは恒常的なものです。一方的に利用するのではなくて、ネットワークを通じて会社と投資家との間にwin winな関係を続けることです。
それはどういうことか。もし仮に、今回の説明会がうまくいって軌道に乗ったとしても、それは1つの会社が特別例外的なことだけなので、大きな成功とは言えないのです。それだけでは局所にとどまる一時的なもので終わってしまう可能性が高いと考えられます。そうならないためには、1社だけでなく、このようなことをする会社が増えていって、ひとつのムーブメントのようになることが有効なのです。その中で、私の勤め先と他の会社を比べて、会社の個性が分ってくるというように。そうなると投資家の参加の範囲も規模が大きくなってくるはずなのです。そして、そういう投資家自体が増えていく可能性が生じてきます。そういうサイクルが起こらないと、この試みは一時的には成功しても尻すぼみに終わってしまう危険が高いと思います。
デイトレーダーのような個人投資家も市場には必要ですが、発行会社にとっては会社をよく見極めて、会社の成長を見守り、そのことによって価値を享受していくという投資をしてくれる投資家が沢山いてほしいわけです。いままで、政府も証券取引所も証券会社も、そういう投資家を増やすことに対して、何もしてこなかったといってもいいと思います。だから、今さら期待してもしようがないでしょう。そうしたら、上場会社が自分手で何かをするしかないのです。そうしないと、自社の株価を適正することが心許ない状況に追い込まれているのです。しかし、直接、投資家を養成しようなどということをしたら、利益相反とか株価誘導といった事態を招きかねません。そこでできることは、間接的なことに限られます。例えば、自社に投資しない投資家ともコミュニケイションをとる。これは単に会話をするということではなくて、会社とか投資に関して情報を交換することです。もっと大胆なことをいえば、会社と機関投資との間で行っているミーティング、このレベルの情報交換を個人投資家が会社とできるということは、そんじょそこらの投資セミナー等の勉強では絶対に追い付けないものです。例えば、それを個人投資家に対して会社のIR担当者が真剣に行ったらどうでしょうか。それは1社だけでは間に合わないので、数社の共同が必要ですが。そういう中で、仮に私の勤め先というのは一つの選択肢として考えてもらえるわけです。そういう選択肢が増えて、全体としての層が厚くなってはじめて、説明会への参加者は恒常的に確保できることになると、参加者の増加を見込めると思うのです。
さらに、ここからは妄想に近いですから、話半分で聞いてもらいたいのですが。一般の個人からの小口の申し込みを受け付けている投資ファンドにとっても、そういうネットワークは魅力的なのではないでしょうか。実際に、投資してくれる個人客を集めて投資先の会社を見学しているファンドもあるわけですから。そういうことを企業の側かにら仕掛けているということは、その企業にもよると思いますが、共催することも考えられないことはないのでは。あるいは、個人投資家を顧客の中心の一つと考え、地道に信頼関係を作っている証券会社にとっても、メリットを作れるのではないかと思うのです。
今回は、説明会の前提となる仮説について、最後には妄想を話しましたが、次回では、その説明会を、一回で終わらせないで、さらにそれを広げていくために、どうしていくべきかを考えてみます。
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