無料ブログはココログ

最近読んだ本

« あるIR担当者の雑感(83)~アナリスト・レポートを書いてもらった後で | トップページ | 生誕100年 船田玉樹展─異端にして正統、孤高の画人生(5) »

2012年8月24日 (金)

生誕100年 船田玉樹展─異端にして正統、孤高の画人生(4)

第3章 水墨の探求

Funadasidaresakura


前回の最後のところで見た「滝」をめぐる様々な作品が、私には船田の創作のピークではないか思えてしかたがないのです。もともと、線を引いたり、色を塗り重ねたりすることが楽しくてたまらない人が、日本画とか西洋画とか、きまりとか、゜なんかという描くということに派生して重要なことと思われてしまっていることを、それに反抗するでもなく、意識するというのでもなく、何にも考えず、手の赴くままに筆が走ってしまった結果、沢山の線や色を重ねたのに出来上がったのは単純化された画面でした。しかし、よくよく凝視してみると、そこには驚くほど沢山で様々な線や色の重なりが小さな綾を無数に、しかも何層にもわたってつくっており、その深みにはまると、抜け出せないような複雑さが隠されています。大袈裟な比喩かもしれませんが、地表の谷となって水が流れているところは、その地下に何層もの太古からの地層が積み重なって、しかも谷をつくるような地殻の動きがあったということは、底の奥深くにはマグマが蠢いているわけで、そういう地下深くまで掘り下げ、地球の根源的なマグマの一端まで迫っているのではないか、と思わせるような、見る者を掴んで離さないものがあります。

しかし、その反面、このような世界は広く間口が開かれたといは思えません。前回も書きましたように、この画家には他人に描いた作品を見てもらうということが頭の片隅にあったのか、あったとしたら、それはかなり限定された人のことしか頭になかったのではないかと、思わせるところがあります。端的に言えば、取っ付きにくい。ましてや、日本画という世界は、言うなれば限られた人々の中で、定型的なやり取りが形式化されているような世界に見えます。大きく言えば、この国の絵画鑑賞も同じようなものですが。そのなかで、こういう作品を誰が見るのかということです。そういう配慮がない、よく言えばナイーブな行為も、現代では独りよがりと突き放されてしまう可能性が極めて高い。もっとも、個人に独立した内面とか才能とかがあって、その赴くままに行動する奔放な天才芸術家というような芸術家の捉え方は、近代市民社会の極めて限定された時期に、限定された地域でのみ仮初に生きていたことでしかなく、船田はそのようなあり方をあえて突き進んだ誤解野郎と言えるかもしれません。

しかし、このピークを過ぎ、くも膜下出血で倒れてもなお、筆をとろうという執念には、伝記的事実としては関心しますが、それを物語として、消費者に押し付けるようなところは、作品の価値とは別物ではないかという反発も起きるのです。ただ、執拗な描き込みに、「これでもか、これでもか」と迫ってくるような迫力は、たしかに一部の作品では感じられ、そういうすばらしい作品を貶めるつもりはありません。水墨画に関しては、今言ったような竹1本1本を際限なく描き込んで、画面を埋め尽くすような、まるで1本1本の竹が画面を浸食するような迫力を感じさせれるものはべつとして、もともと、沢山の色を重ねて、重ねて絵の具の層が分厚くなってしまって、様々な色が混ざった結果、黒っぽくなってしまったというのが、これまでの船田の作品だったと思います。だから、その黒は豊かなヴァリエイションと多様さを秘めたものだったと思います。これに対する水墨画の黒はそういう色の要素を削ぎ落とした無彩色の黒で、それまでの船田の行き方と正反対の方向性です。そういうことで、画面の構成とか題材とかが大きく変わったかというと変わっているようには見えない。なかには、竹林や松、枝垂桜のような、黒の線とか、濃淡を分けた線を重ねることで迫力を産み出していますが、それ以外は、お稽古のような感想しか出てきませんでした。

この回顧展を見て感激したという方が、このような文章を読まれると不愉快に感じられるかもしれませんが、素晴らしい作品は素晴らしいです。しかし、全部がすばらしいとは言えない。この回顧展の展示を見ていると、とくに2階の展示からは、船田の伝記的事実からものがたりを紡ぎ出して、それをバイアスに展示品を見るように仕向けられている、何となく押し付けがましさを感じ、そういうものを削ぎ落として作品に接したいため、こういう書き方になってしまっていると弁解させてほしいと思います。そういうように、作品と向き合うことを見る者に強いるようなものが船田の作品には、あると思うゆえです。

« あるIR担当者の雑感(83)~アナリスト・レポートを書いてもらった後で | トップページ | 生誕100年 船田玉樹展─異端にして正統、孤高の画人生(5) »

美術展」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« あるIR担当者の雑感(83)~アナリスト・レポートを書いてもらった後で | トップページ | 生誕100年 船田玉樹展─異端にして正統、孤高の画人生(5) »