あるIR担当者の雑感(90)~個人投資家向け説明会の試み、後日談(4)
今回は、説明会の告知や集客、あるいは運営で、たいへんお世話になった証券会社とその協力関係について考えたいと思います。今回、お世話になったのは、私の勤め先が主幹事をお願いしている中堅の証券会社です。おそらく、私の勤め先からの今回のような提案は、この証券会社だからこそ対応してくれた、あるいは対応することができたのではないか、その点ではとても運が良かったと思います。それ以上に、そこで対応してくれた証券会社にたいしては、たいへん敬意を持っています。おそらく、大手の証券会社や合併で規模の大きくなったような銀行がバックについているような証券会社では部署の壁があったり、新しいことに対応する柔軟性に欠けていたり、私の勤め先のような小さな会社を馬鹿にしてしまったり、そして、一番考えられるのは、私が直接話をする証券会社の窓口となったIR関係部門の担当者は大手の場合は、控えめに言っても本気でやる気があるのかと思えるような意欲とか自分で考えるという人が見られないため、私が提案をしても、受け入れる人はありえなかったと思います。まず、たいていの証券会社でIR支援部署の担当者では個人投資家説明会を証券会社主催で実施したりするので、それ以外の、実は正反対の方向性の説明会というものを理解しようともしない、あるいは想像できないので思考が停止してしまうので話にならないケースがほとんどではないかと思います。実際に、今回お世話になった証券会社に最初に話を持ち出した時は、すぐには理解してもらえなかったと思います。
そして、実際に担当者が理解できたとしても、それだけではIR支援部署だけでは動けないので、営業店の協力が必要となるので営業担当部署の理解を得なくてはならず、IR担当部署以上に理解をえるのは難しいと思います。そこで部署間の関係が縦割りだったりすると壁があって困難度とさらに増すでしょう。とくに大手となれば組織は大規模になって壁はさらに厚くなります。その場合も、今回証券会社は組織内の風通しが比較的いい会社だったようで、営業店の協力を得ることができたわけです。その結果、営業店で事前に説明会を開いて会社の理解をしてもらって投資家に声をかけてくれたということ、ある程度の人数の確保には責任感をもって当たってくれることになりまた。そして、証券会社で声をかけたからには、責任があるということで、当日の運営についてもIR支援部署、営業店、そして主幹事をしているということで法人事業の協力体制で、出席した投資家への来客応対、道案内なども協力してくれました。これは、初めて説明会を開く身としては、運営面で無事に済んだ最大の要因であると思っています。おかげで、こちらの負担を抑えて、説明会や工場見学の説明といった主要部分に労力を集中して当たることができました。
しかし、反面、限界もはっきりしました。それは、今回のことが証券会社にとってメリットとして感じられたのかどうかということです。私の勤め先は、この証券会社には主幹事となってもらっており、資本政策を実施する時には、それなりのメリットがあるはずなので、将来のそれを期待して、今回は負担でも、将来のために恩を売っておく、とまで行かないまでも、信頼関係を強化しようという意味で、協力したと考えられなくもありません。ということであれば、今回は一回は協力が叶ったわけですが、次回以降はどうか、という点で確定的なことが何とも言えないのです。例えば、今回は地元の支店が全面的に協力してくれましたが、たまたま理解のある支店長がいたから、ということかもしれず、もしそうであるなら、支店長が交替してしまえば、支店の協力は難しいということになります。そうでなくて、この説明会を実施すること自体にメリットを見つけることができれば、証券会社の事業として推進できるわけですが、どうやら今回はそこまでは行っていないように見受けられました。
私としては、個人的な考えですが、証券会社にとってメリットはあると考えています。だから、今回協力を証券会社にお願いしましたが、それは証券会社にとってメリットがあることで、ウィンウィンの関係になりうると考えていました。それはこう言うことです。以前の「個人投資家向け説明会の試み」のところでも書きましたが、この説明会で対象としている個人投資家は全般的というものではなくて、限定的なものと考えていました。それは、このような会社の丁寧な説明を欲し、さらに会社との間で継続的なコミュニケーションを辞さないという点でかなり自覚的な投資家の人ということになると思います。そういう人は、勉強もしているだろうし、情報収集も活発に行っていることでしょう。例えば、ベル投資研究所を主催している鈴木さんという著名なアナリストが以前に東証IRフェアのセミナーで講演していたような企業を退職した人が退職金や貯蓄を資金として、老後の生活設計を兼ねて投資をしようとする(団塊の世代の定年再雇用がそろそろ終わりとなるので、そういう人が大幅に増加するだろうというのが、鈴木さんの展望です)場合、そういう人は仕事上の経験から財務とか投資に対する基礎知識はあるし、自分が関係した業界に関する知識や識見は豊富です。しかも、仕事でパソコンやメール、インターネットを使っていたので情報収集能力もある。そして、メールやSMSなどを通じたネットワークも継続させている。そういう人が個人投資家として市場に参入してきている。しかし、それに対して市場は対応しきれていない。というのが鈴木さんの講演でした。たしかに、そういう人にとって従来の個人投資家向けIRは不十分に映るでしょうし、東証などの投資家向けサービスや証券会社などの対応では不満が残るでしょう。そして、従来の顧客として入ってこなかった人たちなのではないかと思います。そして、今回の私の勤め先が試みようとしたことは、そういう従来の個人投資家として業界のリストから漏れていた人を何とか取り込もうとする試行錯誤でもあると言えます。
これでは、空想的で荒唐無稽でしょうか。それならば、こういう試みを行っているということで、ほかの証券会社とイメージの差別化を図ることも考えられないでしょうか。それは投資家に対してもそうでしょうし、発行会社に対するサービスとしても他の証券会社ではやっていないサービスとして、発行会社が何らかの資本政策を考えているときに、ひとつの提案をできるのではないでしょうか。また、投資家に対しても、私の勤め先のような小さな企業に対しての株式投資を売り込んでも、証券会社にとってはメリットはないのは確かですが、個人投資家に投資信託をセールスしたり投資相談に乗る場合に、投資家と様々な会話を続けて信頼関係を築いていくのが、今の支店営業ではおおきな意味を持ってくると思いますが、その時に、こういうことをしているということはツールとして有効に活用できるのではないかと思うのです。そこで、あらたな顧客の掘り起こしの可能性だってあるのではないか。証券会社としては、使い方によっては、かなり可能性が考えられるのではないかと、手前味噌ではなく考えられるのです。例えば、今回は私の勤め先単独での説明会でしたが、地域や業種など複数の会社を合同で行うことによって、投資家の参加はもっと変わってくるだろうし、会社がうけるメリットも変わってくるはずです。それを、証券会社のセールスに、それとなく連動させることも考えられないでしょうか。
今回は、残念ながら、そういう点では証券会社の協力には、そういう姿勢というのか、ガメツさは感じられませんでした。それは、例えば説明会に出席できなかった投資家への配慮などは、私の勤め先が提案する前に、顧客と交流している最前線の証券会社の支店の側から要望として出されてもよかったはずですが、未だ理解は今一歩だったように思いました。
これは、私の独り相撲かもしれませんし、こうなるにはもっと時間が必要かもしれません。
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