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2012年10月20日 (土)

松島大輔「空洞化のウソ~日本企業の「現地化」戦略」(1)

1章 「空洞化」を怯えてはいけない

1.未来が空洞化する時─「空洞化」は本当に起こっているのか?

日本企業、日本人、特に働き盛りの若壮年層の方、中小企業、地方在住の方のなかには、海外に出ていくのをためらっている人がいます。なぜでしょうか?これは、むしろ日本のシステムができあがりすぎたことが背景にあるように思います。

日本という完成されたシステムのなかで、全体がうまく、いっている時はよいのですが人口動態の変化という構造的な問題を抱えて全体が停滞し、衰退していくという、日本が直面する現状下では、むしろ日本のシステム全体を変えることが難しくなります。個々人では何も変えられないという諦観が支配し、現状を変えようと努力すればするほど、逆説的にシステム全体が強化されてしまうという合成の誤謬。さらには、このシステムの外に一人だけ出てしまうと、自分だけ損をしてしまうのではないかという恐れが、内部からの変化を不可能にしてしまいます。国内の改革のポーズすら、これを提案することが一つのシステムを維持するためのガス抜き装置として作用されているのが現状でしょうか。その意味で、「空洞化」論とは、こうしたシステムを維持するための鎮痛剤として働いているのです。

これを変える方法の一つは、特に日本がこれまで経験してきたような外圧、外からの入力なのでしょう。この時代には、外に出ることを通じて新しい改革圧力を調達する。「空洞化」論に対する、「新興アジア」での、「現地化」はこうした方法論なのです。

「空洞化」とは「一国の生産拠点が海外へ移転すること(海外直接投資)によって、国内の雇用が減少したり、国内産業の技術水準が停滞し、更には低下する現象」であると言われています。その意味で「空洞化」とは、まず国内雇用の減少、すなわち雇用の空洞化を意味します。さらに国内技術水準の停滞、もしくは競争力の低下、すなわち技術の空洞化ということになります。そして、これに付け加えるのであれば、本来日本に還流すべき還流すべき資金が海外に向かってしまうという資金の空洞化となります。これら3つが「空洞化」への懸念の総体であるとみることができます。

実は「空洞化」という実態が確認できないのです。しかし、「空洞化」論がもたらす日本企業、日本人への悪影響については深刻に取らざるを得ないのは、この国の未来を本当に空洞化させてしまうからです。「空洞化」を懸念して、あるいは「空洞化」論による海外展開への心理的な抑制が働き、日本国内にひきこもることがこの国の将来、将来世代に取り返しのつかない禍根を残しかねないのです。

2.海外で稼いだお金は日本国内に還流しない?

日本企業が海外に出て行ってしまうと、日本国内に稼ぎ手がいなくなってしまうとともに、彼らが海外で稼いだお金は、その場(海外)で使ってしまい、日本国内には戻ってこないのではないか、そんな危惧を抱かれる方がいるかもしれません。しかし、現実は、そうなってはいません。事実、海外で稼いだお金は、日本に戻ってきています。それどころか、日本企業や日本人が海外で稼いだお金が、日本が貿易で稼いだお金より大きくなり、日本の対外取引の生命線になりつつあるのです。2005年以降、日本は、もはや実態として「貿易立国」ではなくなり、「投資立国」へと変貌を遂げています。日本企業が国内に留まって貿易で稼ぐお金よりも、海外に進出して出稼ぎで稼いだ仕送り、海外での投資の果実の還流、こうした収入のほうが、多くなってきたという根本的な構造変化を理解する必要があります。

最近まであった税制の障碍が解決され還流の仕組みが強化されました。特に中小企業の場合海外子会社からの送金なくしては日本での本社の事業継続が出来ないという状態に立ち至っています。「空洞化」、国内に残るか否か、というどころの話では、もはやない。「海外なくして国内なし」、という状況にあるのです。さらに海外売上高比率が高い企業が、国内の設備投資の拡大を牽引しています。

タイのある工業団地に進出している日本企業の売上高経常利益率の平均は、11%近くに達し、日本国内での日本企業の売上高経常利益率の平均が3.8%程度であることを考えれば、その差は歴然です。タイのみならず、インドネシア、ベトナム、中国と「新興アジア」は押しなべて高い利益率を示すのに対し、欧米や日本の水準は極めて低い。このことからも、「新興アジア」のポテンシャルを確認できます。これらの企業は海外で稼いだ資金で研究開発を行っていくというのです。これは政府が税金を徴収する形で介入するのではなく、民間が自ら海外で稼いだ資金を還流させ、民間主導の研究開発を可能にしているということなのです。新しいイノベーションの元手がが、海外での儲けからもたらされる。日本企業にとって、海外の儲けを元手に新しいイノベーションが起こる、そのような好循環が起こり始めているということなのです。

また、この海外で稼いだ資金を国内に還流した場合の使途として、1割近くの企業が「雇用関係支出」に回している。つまり海外で稼いだ資金で国内の雇用維持、拡大に寄与していくという日本企業の方向性が浮き彫りになってきている。

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