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2012年10月30日 (火)

松島大輔「空洞化のウソ~日本企業の「現地化」戦略」(10)

6.日本に錦を飾る出世魚中小企業─下請構造からの卒業

「新興アジア」を活用した新しい産業構造、産業再編は、大企業だけのものではないはずです。オンリー・ワンの技術をもった中小企業を中心に産業融合し、この「新興アジア」に打って出ることが、下請構造からの脱却に繋がるのです。「新興アジア」に進出する大企業は、グローバルな競争環境の激化を背景に、コスト削減を図る必要性があります。こうしたなか、各メーカーは、現地調達率の向上を進めています。こうした大企業の「現地化」が進む過程で、日本の中小企業らとって、海外展開は今までと異なる環境になりつつあるということです。いまのように系列に頼ることができないという点が重要です。2008年のリーマンショックによる超円高以前の進出は、中小企業にとっては、それほど大きな事業環境の変更ではなかったのかもしれません。というのも大企業の傘下、系列として、大手メーカーにしたがって海外展開を進めるところが多かったからです。しかしながら、2008年以降は、メーカーはみずからの系列を解体する動きが出始めているのです。

下請構造から脱皮し、収益構造を改善させる契機でもあるのです。日本の魂と、「新興アジア」のリソースの融合。日本の先端技術やノウハウと、現地の要諦が加わることで、日本の「すり合わせ」と新興アジアの「モジュール」が、最強のアライアンスを生むのです。その場合、最大の課題は、日本の中小企業がみす゜から顧客を探さなければならない、ということです。「新興アジア」における「現地化」は、このピンチをチャンスに変える可能性を宿しています。こりまで、日本国内の系列構造によって、下請の地位に甘んじてきた中小企業は、じつは自らの真価、真の実力を知らないのではないでしょうか。世界に通用する「オンリー・ワン」の技術やノウハウを持っている中小企業が、新天地である「新興アジア」に出て、系列を脱することは、新しいビジネスを形成するチャンスではないでしょうか。

その延長として、中小企業単体での「現地化」ではなく、日本の産業クラスターごとの集団「現地化」が主流になっていくでしょう。つまり系列構造という垂直的関係による「現地化」は、1社では海外進出できない中小企業にとって有効な武器を提供します。「新興アジア」における複雑で分かりにくい労務、財務、税務等の事務一般を共用することが一つの成果となります。

7.日本のアジア化とアジアの日本化

「新興アジア」での「現地化」の向こうには何があるでしょうか。それは「新興アジア」の日本化です。日本を「現地化」することと、現地が日本化することは、じつは地下水脈では通底しているのです。およそ「現地化」は、3つの構成要素によって実現していきます。市場の創造、組織の再編、生産の革新という一体の取り組み。市場は何を求めているのか、現地市場に聞くとともに、そのための生産やサービス提供に向けた日本企業の経営資源や外部の資源を組み合わせ、その実現を梃子に、企業組織の再編、イノベーションを進めるというセンスが重要です。「新興アジア」における「現地化」は、これら日本企業の内部と外部、市場への働きかけを通じ、最終的に、「新興アジア」における日本企業が活躍する環境を作りこむことにあります。すなわち日本的な様式への標準化です。日本企業のビジネス環境、経済活動が円滑に進む「新興アジア」に作りこみ、これが普遍的な価値として浸透し、定着し、確立するのです。これこそが先に説明た「メタな競争」の極致、ルールのルール化です。

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