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2012年10月27日 (土)

松島大輔「空洞化のウソ~日本企業の「現地化」戦略」(7)

6.ひきこもる日本企業

実際には、日本企業FDIは世界的には低い水準にあります。

日本の中堅・中小企業のうち、ほんとうは競争力があるにもかかわらず、海外展開しようとしないで国内にとどまっている企業は、全企業の内3分の1におよぶとされています。なぜ、日本の企業が海外進出、とくにこの「新興アジア」への「現地化」に躊躇しているのか。その必然性を理解できない、情報がない、というところが問題であるのか。さらに恐ろしいのは、日本が居心地が良い一方で、危機が、危機感として顕在化しない危機、真綿で徐々に首が締まっていくような状態でしょうか。厄介なのは、これまで日本企業が勝ち過ぎたが故に、ある特定の外部環境で最適なパフォーマンスを上げたが故に、その後のグローバル化と人口減少社会という内外の激変した環境に対応できない状況にあるということでしょう。いったん居心地の良さを享受すれば。もはや外側の世界を謝絶するという回路が働く。ならば、その外部に新しい現実を受け止める装置を模索する必要があるようです。それが「新興アジア」への飛翔、「現地化」の意義なのです。

ひところ「日本企業ゆでガエル論」がもてはやされましたが、これもこうした文脈の上に理解できます。日本企業における最大の課題は「決断しない/できない経営」であり、特に情報がなくリスクの高いと思われている新興国ビジネスでは顕著になります。日本企業が中国や韓国に対し、ビジネスで後塵を拝する理由、それは経営のスピード、決断の遅さにあります。

なぜこれほどまでにビジネスにスピードを強調し、急ぐ必要があるのでしょうか。一つの大きな理由は市場の履歴効果です。巨大企業がすでに入り込んでいる先進国市場、 日本国内市場では、競争は熾烈をきわめます。「新興アジア」の場合、グリーン・フィールド(未開拓市場)に先に出たものがシェアを独占し、その後追走して来る競争相手がいても、比較的な額大きなシェアを独占する傾向にあるのです。韓国企業はこの先行投資を得意とします。これは企業経営のスピードとも表裏一体ですが、各国企業は誰も出ていない「新興アジア」各国に先んじて展開してきました。サムソンやLGに代表されるように、品揃えと広告で、現地におけるブランドの定着化を進めているのです。

つまり、想起に進出し、「現地化」するということは、新しい市場を創造することに外なりません。「新興アジア」市場の本質を、単に価格の安さで語るところに大きな問題があります。まだない場所にどのような市場を作り込むか。相手にどのような課題があるかを見つけたうえでそれに対する最適な解決法を提供してビジネスにしていく。これが「新興アジア」市場のアルファであり、オメガです。

「新興アジア」のリスクは、しっかり向き合う必要があるというのは当然です。問題は、日本に残り、海外展開しないリスクと海外展開のリスクの比較ではないかと思います。何もしないことは、それが最大のリスク、「不作為のリスク」が大きくなりつつあるということです。日本企業の場合、「新興アジア」に進出する時期は、その国のビジネス環境が整った段階とすることが多いようです。これでは遅い。かと言って、ビジネス環境が整備されない市場に出ていくことは確かにリスクなのです。しかし、この点を考えると、日本企業はその特化したビジネスで進化を遂げてしまったゆえに、その仕切られたビジネス環境では生存できても、曖昧模糊としたビジネス環境では、自らの強みを発揮できないようです。こうしたことは技術力やノウハウなど、競争力があるのに「新興アジア」では勝てない理由になるでしょう。しかし、実際に、ビジネスはゼロベースで作り込む必要があるように思います。「新興アジア」での「現地化」には、日本の常識を捨てて、もう一度方針を立て直す精神が必要となるのです。

8.日本型「投資立国」─カネの「現地化」

日本はすでに「貿易立国」から「投資立国」に変貌を遂げたことを理解しておく必要があります。一国の国民経済が成長する場合、貿易収支黒字が牽引する時代から、所得収支の黒字が中核となる時代へという歴史的な流れ、「貿易立国」から「投資立国」という趨勢は、不可避的で必然的な過程なのです。つまり一国の経済発展に応じて、国際収支の内容が変化していく、という考え方です。

日本型「投資立国」とはイギリスやアメリカのような金融国家としてではなく、むしろ海外直接投資による「新興アジア」を中心とした海外への生産拠点拡大、そのための海外資産拡大運動として見てはどうでしょうか。その意味で、日本の海外展開を支える海外直接投資(FDI)や海外の企業買収(M&A)を中核とする投資国家日本のイメージを共有すべきです。

まずは、歴史必然的に、戦い方が変わったということを理解する必要があります。端的に言いますと、今までのような輸出競争力の強さを前提とした戦い方ができない。もはや日本にとって、輸出は国際経済の主戦場にはなりません。いかに「投資立国」として、投資効率の良い、すなわちリターンの高い「新興アジア」への投資を進め、その果実を日本企業自ら回収できるか。そういうゲームに対処すべく方法も変えなければなません。

日本企業の海外活動は、これまでのフロー型からストック型に変える必要があります。日本国内にも財政再建の議論や、景気対策の文脈で、フロー重視の経済運営から、ストック重視の経済政策へ基軸を移そうという議論があります。これからは、さらに海外でもフロー(経常収支)ではなく、ストック(海外資産)をものさしに議論を進める必要があります。所得収支の黒字の背後には、それに見合う海外への投資がカウントされていますので、海外、特に「新興アジア」にガンガン投資すべきこの時期には、資本収支は赤字になります。そして海外に資産が積み上がっていくという構図です。「新興アジア」における海外資産の増大を目標にし、資産管理を充実することに企業や国家の軸足を移すという意味です。「新興アジア」諸国と競っていつまでも身長の伸び(成長)を期待するのではなく、壮年に入れば、生活習慣病を予防すべく体重管理(資産管理)に注力すべき時なのです。これを日本は金貸し専業、金融的果実を追求するという意味での金融国家に導くことではありません。日本、すり合わせ型ものづくり、高度な技術、ノウハウを生かしつつ、「新興アジア」への投資を前提に、これらの強みを発揮できるゲームを構想するのです。日本の強みを生かすためにこそ、逆説的に、日本に居残っていてはいけません。「新興アジア」に飛翔すべきなのです。それは足元の大きな変化をしのいで、将来におけるものづくり大国日本の再生のためにこそ重要なのです。

日本企業の場合、よいものを作ろうという努力がかえって仇となり、日本のものづくりは将来的に衰退するかもしれません。ならば、この日本企業の強化を進めるには、まずは激しさを増す国際競争の中、日本企業が「己に克つ」ための体質強化に向かうメカニズムが必要です。ここに、金融仲介機能の転倒構造が成立します。「金融の論理」、儲かるか、儲からないか、という規律に着目して、日本のものづくりを補正するメカニズムを構築するという試みです。ものづくりの矜持を突き進めガラパゴス化をするためではなく、「新興アジア」での「現地化」を進め、儲かる仕組みを作る。日本企業の体質を変えるために金融規律が利用されるというコペルニクス的転回。

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