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2012年11月 3日 (土)

夏野剛「なぜ大企業が突然つぶれるのか~生き残るための「複雑思考法」」(3)

第3章 2020年・日本の携帯電話メーカーは全滅?

高度経済成長期は経済全体が右肩上がりで伸びていた。国民の誰もが、昨年より今年、今年より来年の所得が増えていくと思った。人々はよりよい生活を求め、家電や自動車といった製品を買い求めるようになり、そうした旺盛な需要に対し、とにかくモノを提供しつづけることが、企業の戦略になった。テレビを生産するメーカーが、冷蔵庫やエアコン、炊飯器など異なる事業を傘下に収める「アンブレラ経営」という考え方が生まれたのも、このころである。黙っていてもモノが売れる時代には、他社の製品と差別化を図るため、リスクを伴う革新的なアイディアを提案する社員の必要性はあまり高くなかった。だからこそ、ある程度の水準の大学から「新卒一括採用」で人材を集め、誰でも一定レベルのアウトプットが出せるよう画一的に企業教育を行った。また一度採用した人材は、長く会社にいてもらった方が効率が良い。そのため「終身雇用」というやり方で、社員に安心感を与えた。個人の生活は「企業人生」と不可分になっていき、いわゆる“モーレツ社員”が大量発生することになったのだ。そこでは、抜群にできる一人を引き上げるより、全社員が平等に「頑張っている」という状況が大事にされた。

90年にバブル経済が崩壊すると、その様相は一変する。右肩上がりで伸びていた経済成長はストップし、他社と似た製品を生産していても、黙っていても売れることがなくなった。いきなり「商品の独自性」という考え方を経営に取り入れなければ、収益が上がらない時代になったのである。独自性の源泉はいうまでもないが「社員の多様性」に由来する。しかし、「均質性」を重視してつくられた日本企業では、その変化に対応することはできなかった。祖間傾向にIT革命が拍車をかけた。ビジネスの世界がバーチャルなネットの世界へと移行することで、製品そのものの独自性がますます求められるようになった。さらにはマーケットがポーターレス化することで、外国でビジネスをすることが当たり前になった。さらには、「検索革命」が個人の情報収集能力を飛躍的に増大させた。社員の間で「知識量の格差」が急拡大し、それが「アウトプットの格差」としても現われるようになった。これは、ヨコの規範だけでなく、タテの前提も突き崩し、年功序列システムを過去の遺物にしてしまった。極め付きは「ソーシャル革命」。これによって個人の情報発信能力が高まり、ツィッターのフォローが一万人もいるような、経営者よりも社会的に注目される社員が現れた。彼らにしてみれば、その影響力を生かして既存の組織にとらわれず働いた方が、余程仕事になる。社員個人の能力が会社というフィルターを通してしか現れない時代は終わり、社会とダイレクトにつながるようになった。

これほど「日本型経営」は環境に否定される時代となった。しかし、日本の経営者は、これまでの組織のかたちを作り変えようとしていない。逆にほとんどの企業が、「これまでの形を変えない」ことを第一にして、高度経済成長期の30年間で積み上げた資産を食い潰している。そうした傾向が社内の異分子を排除する動きにもつながっていく。複雑系社会の中でイノベーションを起こす人材は、独自の哲学を持っているが、社内で煙たがられてしまう。日本企業は成果よりも内部の心地良さを優先させて、自滅の道を歩んでいる。旧態依然とした経営の仕組みにこだわることは、実はもっともハイリスクな選択なのだ。

中でも日本企業の屋台骨を支えてきたエレクトロニクス産業の惨状は目を覆うばかりだ。IT革命以降は人々の興味が多様化して、その行動パターンも「インターネットとの融合」を抜きにしては考えられなくなった。そこで人々が求めていたのは、たんなる「モノ」ではない。アップルのituneのように「ネットを経由して音楽データを購入し、自分のプレーヤーに取りこむ」というような「仕掛け」である。こうした「仕掛けづくり」ができるのは、その企業に「哲学」があるかどうかにかかっている。消費者に提供したい価値や、どのような製品を作って社会に貢献すべきかを明確に示すことで、社内全体が同じ目標をめざし、イノベーションを起こす仕掛けの開発ができる。しかし、日本の製造業は現状から目を背けて、相変わらず「モノづくり」の考え方にこだわっている。製品の機能が十分に進化しきってしまい、どの企業も製品スペックでは大きな差がつけられなくなっても、日本メーカーは「モノづくり」にこだわりつづけ、無駄なボタンや過剰な機能を加え付けることで、いわゆる「ガラパゴス化」を起こしてしまった。「仕掛けづくり」に必要な明確な哲学を示すこともなく、技術部門、マーケティング部門といった組織を蛸壺化させたままで、各部門からバラバラに上がってきた提案を積み上げる状況を放置した。これでは部門ごとの改善点が重なっても、その総和が製品としての価値にはつながらない。

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