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2012年11月 5日 (月)

畑村洋太郎×吉川良三「勝つための経営~グローバル時代の日本企業生き残り戦略」(2)

ところが2000年代に入ると、状況が大きく変わります。この時の変化の中身は、大きく分けて二つあります。これまでは生産拠点にすぎなかった新興国が「オリジナルの製品を作る生産国らなり、消費国に変わった」ということが一つです。これは生産現場も市場も、グローバルに大きく変わったことを意味します。もう一つの大変化が、ものづくりの世界で急速に進んだ「デジタルねりづくり」の流れです。そしてこの二つは大きく関連しています。「デジタルものづくり」というのは簡単に言えば、設計から実際の量産までの設計情報をデジタル情報でやり取りするということです。これは多少コンピュータが使えさえすれば、誰でもどこでも、ものづくりができるようになったことを意味します。さらに今ではモジュール化によって汎用部品を組み合わせれば簡単にそれなりの品質の製品が作れてしまいます。これはとくに電器・電機製品に顕著です。デジタルものづくりによって、世界中の「誰でも」「どこでも」「簡単に」そこそこの製品をつくれるようになりました。こうなると勝負は、デジタル情報をうまく使って、いかに魅力的な商品をつくり出すかということになってきます。また、デジタルものづくりは、商品開発のスピード、調達のスピードとコストダウンを促進する大きな武器にもなっています。そして、このデジタルものづくりへの取り組みの遅れが、日本のものづくりを苦境に追い込んでいる大きな原因の一つとなっているのです。日本の1990年代までのものづくりの強みは、同じような製品を欧米よりも上手にかつ安価に作れることでした。技術の進化と生産現場の精度を上げることで、高機能高付加価値の商品を世に出し、成熟した先進国市場もまたそれを歓迎しました。しかし、デジタルものづくりの広がりによって、日本画ものづくりの強みとして培ってきた生産技術の高さが、競争を優位に進めるための武器にならなくなりました。ものひとつのグローバル市場の変化もまた、日本のものづくりを苦境に追い込んでいる大きな原因の一つになっています。これまで日本企業が市場として想定していたのは、日本国内、北米、西欧といった先進国だけでした。2000年代の初めから、新興国といういままでとは質の異なる新たな巨大市場が現われてきたのですが、その巨大市場がのぞんでいた商品は、日本企業の発展とともに追求してきた製品のラインアップの中には入っていませんでした。日本の多くの企業がその新興市場への対策を講じてこなかったことが、自分たちを苦境に追い込む原因になっているのです。もともと技術の進歩は著しく、どの分野でも消費者が求めているレベルのはるか上で激しい開発競争が行われています。しかしブランド力などを一切考慮せず、単に製品が備える機能や品質だけでいうと、それこそ後発組の(日本から見ると)遅れた技術でも大多数の消費者を満足させることは可能なのです。それに加えて新興国には、かつての日本のように労働賃金の安さという武器もあります。

しかし、日本の製造業は、こうしたものづくりの世界で起こっていた2000年代の大きな変化に目を向けませんでした。それが結果的に、アメリカ発の金融危機後に日本のものづくりを窮地に追い込むことにつながって行ったのです。

2000年から金融危機までの6年間、日本経済は好調な輸出型製造業に牽引され、経済成長を続けたことになっています。しかし、金融バブルに沸くアメリカを中心とした市場で、今まで通りの方法で製品を売った結果に過ぎませんでした。そんな時代に経営者が世の中の雰囲気に逆らって、新しい道を模索するのは困難だったのは確かでしょう。しかし、時代状況が大きく変化する中で何もしなかったのは事実で、金融バブル崩壊後に大きなツケを十分に払わされることになりました。金融危機を機に日本の経済成長を牽引していた製造業にとり、一番大きな市場であったアメリカで物が売れなくなったわけですから、日本経済が立ち直れていないのも当然でしょう。

根本的な問題は結局、時代の変化に対応しなかったことにあります。2000年代にグローバルな世界で起こっていた変化に対しては、本来は今までの生産の考え方を変えないといけないレベルの改革が必要だったのですが、それができた企業はほとんどありませんでした。そこまでするのにはよほどの危機感をもって組織を変えるくらいの変革が必要です。業績が好調だったこともあり、ほとんどの企業はその改革をしませんでした。

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