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2012年11月 1日 (木)

夏野剛「なぜ大企業が突然つぶれるのか~生き残るための「複雑思考法」」(1)

1章 なぜIT革命は“有史以来最大の衝撃”なのか?

経済成長のフェーズではなく、成熟のフェーズに入った日本経済は、モノづくりに代表される第二次産業に代わって、サービス業に代表される第三次産業が主要産業になる。こうした議論を私たちはこれまで耳にしてきた。しかし、状況は、これから変わるのではない。すでに、「変わってしまった」のだ。つまり、鉄や半導体に代わって、いまや「IT」が全産業のインフラとしての地位を獲得したのである。二十世紀の末から現在にかけて、この新しいテクノロジーは「IT産業」という括りが意味をなくしてしまうほど、社会の仕組みを根底から変えてしまった。農業革命、産業革命など、人類はさまざまな「革命」を経験してきた。しかし、現在進行形で進んでいる「IT革命」は、間違いなく有史以来、最大の衝撃を私たちに与えている。

1998年。「IT革命」のターニングポイントである。そこから現在までの歴史を振り返ると、この十数年間で時系列的に、IT技術が社会に対して、「三つの革命」を引き起こしたことがわかる。「第一の革命」は、98年から2000年代前半にかけて起きた、「リアルからネットへの顧客設定の変化」。消費者を対象とするB to Cビジネスの軸足が、リアルな店舗から、ネット上の顧客へと移り始めたのが、丁度この時期なのだ。これによって、ユーザーの利便性が大きく高まった。さらにはマーケティングや販売方法も、劇的に効率化したのである。次に起こった「第二の革命」は、2000年代前半に起きた「情熱の爆発」。情報の爆発とは、企業のIR情報や最先端技術の学術論文など、ありとあらゆる情報がネット上の「アーカイブ」となり、「すべての情報がウェブ上にある」という状況になった、ということである。同時に、ブログが普及したことで、個人がものを考え、発表する主戦場がネット上に移った。そこでグーグルなどの検索エンジンを使うことで、どのような問であっても答えが見つかる「検索革命」が到来した。その後、2000年代後半から現在にかけ、「第三の革命」が起きる。それが「サーシャルメディアによる、個人の情報発信能力の拡大」。ツィッターやフェイスブックといったソーシャルメディアの登場によって、何気ない「つぶやき」がリアルタイムに発信され、それを何百人から何千人というユーザーが目にする、という時代がやってきた。この三つの革命の結果、ユーザーがそれぞれに作用し合い、システムが独自の変化を遂げていくという「複雑系」の現象が、いたるところで見られるようになった。そうした複雑系によって、企業が予想もしていなかったユーザーの創意工夫が新しいビジネスを生み出す「創発」や、本来は独立しているはずのユーザーが、自発的に一定の方向に動こうとする「自己組織化」など、これまでには考えられない現象が次々に起こったのである。この人類が初めて経験する環境変化が、98年から現在までという、わずか十数年で起こったという衝撃の事実を、まず知らなければならない。

この十数年間の社会の変化は、対応によっては一瞬で企業の生死を決めてしまう。そうした社会では、情報収集能力と発信能力が飛躍的に高まった個人を“抑えつけないこと”が、企業に求められる新しいマネジメントになる。普通の能力を持つ100人が力を合わせるよりも、1人の天才が独創的に発想する方が、優れた成果を出せる時代になった。現実がそうなってしまったからには、企業内で個人の能力を最大限に生かすための権限委譲や、教育システムが必要とされるのは当然である。

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