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2012年11月 6日 (火)

畑村洋太郎×吉川良三「勝つための経営~グローバル時代の日本企業生き残り戦略」(3)

これに対して韓国のサムソン電子は李健煕会長が強い危機意識のもとで1990年代にグローバル化とデジタル化に向けて改革を行いました。そのために断行したのが、人材育成・製品開発・生産プロセスにおける三つのイノベーションです。人材育成では、世界中の多種多様な市場に調査に行ける専門の人材を育てるところから始まりました。企業内に自前でCIAのようにインテリジェンス部門を持つというイメージと言えば分かり易いでしょぅか?製品開発と生産プロセスでは、デジタル化を最大限に利用し、多種多様な地域の消費者に合わせたレベルの製品を安価かつ迅速に提供できる仕組みをつくりあげました。サムソンのものづくりの特徴は、日本企業が重視した基礎研究や生産技術そのものに注力せず、それよりもどのような製品を消費者に提供するかという、「ものつくり」の「もの」の側に重きを置いている点です。たとえば同じテレビや冷蔵庫でも認められている機能や価格は、先進国と新興国では大きく異なります。もっといえば先進国や新興国でも文化や人々の考え方が異なればニーズは大きく変わってきます。サムソンは、この点を重視して、多種多様な消費者のニーズに合った多種多様の製品の開発に力を注いでいるのです。これを支えているのが、デジタル化を基本にして新たに作り出した仕組みです。多種多様の製品を迅速にかつ開発かつ提供できるようにし、なおかつ大量生産でなく小ロットの生産でも利益が出せるようにしたことで、サムソンは世界的な企業に成長したのです。

サムソンの大躍進の秘密は、「つくり」より「もの」重視のデジタルものづくりの時代ならではの戦略にあるといいました。こうした戦略で成功を収めている例としてアメリカのアップル社があります。

アップルのものづくりはサムソンとはまったく違います。アップルはサムソンのように、世界中のそれぞれの市場のニーズを綿密な現地調査によってあぶり出し、それを自分のものづくりに生かすといった方法はとりません。彼らはこれから私たちの生活がどのように変化していくのか、時代の流れを捉え、その流れに乗った製品を開発して行きます。すなわちアップルの強みは、人々の生活を変えるような、新しい製品の開発力にあります。一方で日本ではあまり認識されていないようですが、「つくり」である生産技術にはあまり重きを置いていないのです。というより自社の量産工場を彼らは持っていません。そして利益という意味ではそれがアップルの大きな強みになっているのです。今日のアップルの躍進はもちろん世界を変えるような革新的なアイデア(「もの」)によるものであることは間違いありませんが、その背景には、製造を水平分業へ転換するという大きな改革があったのです。アップル社のような、水平分業とも言うべきやり方は、ものづくりの世界ではいまや当たり前のものになっています。

一方、品質を重視してきた日本では、開発から製品の生産まで自社で一貫して行う垂直統合型―のこだわりがまだまだあるようです。とくに海外の企業に製造を任せるということは非常に抵抗があるようです。しかし、家電大手の赤字決算を見る限りでは、何でも自分でやろうとした「自前主義」へのこだわりが、大きな負担になっているとしか思えないのです。現実にはORMやODMで極端に品質が劣り、それによって消費者に敬遠されているということはありません。それどころか余計なコストが削減できて、低価格で提供できることで、むしろ消費者から大きな支持を受けていることの方が多いのです。当然のことですが、自社で生産設備を持てばお金がかかります。多種多様のニーズがあるグローバルな市場を相手にする場合は、細部にわたって行わなければならないマーケティング調査だけでも大変な負担になります。ところが製品の生産を外部に任せれば、設備投資はほとんど必要ありません。さらにODMのような形で経験ある製造業者の考えを取り込みながら製品作りを行えば、自分たちにとって未知である市場にも対応がしやすくなります。さらに汎用部品の調達なども数の問題で圧倒的に安くなります。もちろん水平分業型にはデメリットもあります。やはり、自分たちが定めた品質の基準が厳密には維持しにくいのです。いつでも誰でもどこでも同じものが作れる現代のものづくりの勝負は、「と゜のようにつくるのか」ではなく、「どのようなものをつくるか」で決まります。これが日本の製造業にまだまだ欠けがちな発想です。現在ものづくりで世界を席巻している企業は、どこも「つくり」ではなく「もの」を重視しています。製品に使われている要素技術には、誰にもマネできない目新しいものはほとんどありません。いわば既存の技術の組み合わせによって消費者に支持されるものをつくっているのです。

翻って日本のものづくりはどうでしょぅか。よそがマネすることができず、確実に需要がある技術を持っている企業は、確かに不況の中でも業績を落とすことがありません。その一方で、同じような製品をより上手につくる「つくり」にこだわっている企業は、軒並み業績を悪化させているのが実情です。そもそも技術にさほど詳しくない大多数の消費者の側から見ると、多少の技術の優劣など購入を決める時の大きな要素にはならないので、これは当然の結果といえます。

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