無料ブログはココログ

« 夏野剛「なぜ大企業が突然つぶれるのか~生き残るための「複雑思考法」」(3) | トップページ | 畑村洋太郎×吉川良三「勝つための経営~グローバル時代の日本企業生き残り戦略」(1) »

2012年11月 3日 (土)

夏野剛「なぜ大企業が突然つぶれるのか~生き残るための「複雑思考法」」(4)

第4章 IT鉄砲論─こうして個人は生き残れ!

複雑系社会に日本企業が取り残され、国力が衰退していくことは、日本に住むビジネスパーソンにとって、けっして他人事ではない。これまで日本社会では、死ぬまで会社が面倒を見てくれることが当たり前だった。しかし会社が突然死しても、個人は生きて行かなければならない。これまでIT革命の衝撃と、それに対応できない日本社会の惨状を述べてきた。これに対して、複雑系社会で個人が生き残るカギも、ITにある。個人にとってITとは戦国時代における一方なのだ。その鉄砲を使いこなせるかどうかで、十年後あなたの人生は大きく変わってくる。戦国時代に鉄砲が大きな役割を果たしたのは、1575年の長篠の戦だった。鉄砲という新しい武器の長所と短所を理解してもこれまでの習慣にとらわれず、もっともふさわしい戦術や組織体系を生み出した信長軍に軍配が上がったのである。現代においては、そうした武器がITなのだ。時代の趨勢を読み解いて、ビジネスという名の「戦い」にその武器を効果的に取り入れることで、とてつもない成果が上がる時代になった。まだまだ日本ではツィッターやフェイスブックが“若者のツール”と思われている。しかし、見識、人間力、判断能力、分析能力がある人、あるいは他人にはない人生経験をもった人がITで武装すれば、その戦力は一気に何十倍、いや何百倍にもなる。

 

このあと、具体的にどうすべきかの提言が述べられ、同様のことが企業、社会、政府への提言と続きますが、それは、これまでの現状分析をみれば想像できる範囲内のことなので、これ以上書く必要はないと思います。この著作の面白さは、現状に対しての小気味いい批判的コメントであり、ある意味典型と言えるものを、スタンダードな形で提示したことにあると思います。著者が現場で感じたことを手際よくまとめたということで、この分析は話題用として重宝できるでしょう。ただ、著者は実践の人なのだろうから、これらについて踏み込んだ考察は為されておらず、それは読んだ各自が自分で考えろということではないか(好意的に受け取れば)ということだと思います。例えば、最後の鉄砲についての分析についても、局地的な戦いの場面においては、鉄砲に対して、弓矢の優位性が客観的にあったということで、鉄砲は戦術面では一つの手段に過ぎなかったということです。破壊力や射程距離は鉄砲が有利ですが、速射性や機動性、そして補充性では弓矢の方が格段にすぐれていたわけで、ひとつの合戦としてみれば長篠の合戦は、たまたま鉄砲を信長考案の三段撃ちに適していたということです。それよりも、信長の大きな突出点は、それまで領地という地縁に縛られ農民という兵士を徴発することから守備的で、せいぜいが近隣の土地を略奪することに適していた軍団を、遠征をして侵略するという組織に作り変えた点にあると思います。その時に鉄砲という武器が生きたわけです。たとえば、弓矢に無い鉄砲の利点がものをいうのです。それが、現代の言葉で言えば兵士のモジュール化です。弓矢の一人前の使い手になるには長期間の鍛錬が必要ですが、鉄砲には必要がありません。ということは侵略に必要な兵士の徴発が容易で、軍団を促成できる。となると、兵士をコマとして取り換えが利くようになると組織として、動かしやすくなるという点です。つまり、信長という突出した武将の言うがままに、手足のように使える一定レベルの兵士の集団の組織化をしたわけです。そこでは、戦後時代の傑出した侍を必要としない平均化された軍団です。言うなれば、著者が批判する日本型経営を信長は、新たに導入したといってもいいのです。そういう解釈の仕方もあるということです。著者は、従来の考え方に固執するなと説きながら、その考えの組立は従来の枠からはみ出ることはないのです。その点で、深い考察が為されていないといったわけです。

« 夏野剛「なぜ大企業が突然つぶれるのか~生き残るための「複雑思考法」」(3) | トップページ | 畑村洋太郎×吉川良三「勝つための経営~グローバル時代の日本企業生き残り戦略」(1) »

ビジネス関係読書メモ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

« 夏野剛「なぜ大企業が突然つぶれるのか~生き残るための「複雑思考法」」(3) | トップページ | 畑村洋太郎×吉川良三「勝つための経営~グローバル時代の日本企業生き残り戦略」(1) »