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2012年12月14日 (金)

手島直樹「まだ「ファイナンス理論」を使いますか」(5)

「高成長、高リスク企業は手元資金を潤沢に持つことが普通です。高成長企業は成長投資の機会が豊富であり、手元資金を十分に持つことで投資のチャンスを確実につかむことができます。一方、高リスク企業であれば、業績の悪化によりキャッシュフローが悪化すると十分な投資ができなくなる等のリスクがあるため、手元資金を多めに持つことになります。もちろん、資本効率性の観点から無駄な手元資金を保有したくはないのですが、最適な手元資金額は誰にも分りません。事業計画をベースにキャッシュインフローとアウトフローの予測をすることは可能ですが、事業計画ほど当てにならないものはないからです。これを真に受けて最適な手元資金額を算出し、その額を上回る現金を余剰現金として全額株主還元にまわしたりすると、後に社債を発行するような羽目になりかねません。これを回避するためには多くの手元資金を保有するしかないのですが、上場企業である以上、ルールが存在します。一言で言えば、経営者が規律を持っているかどうかということになります。

誰もが認める高成長業であれば、いくら手元資金があっても堂々としていればよいのですが、そうでないと株主への説明が大変になります。平均的な日本の企業は高成長企業とは言い難く、当期純利益を100%内部留保すべき企業像よりは100%株主還元すべき企業像に近いはずです。現実としては、経営者だけが自社を高成長と思い込んでいたり、M&Aや積極的な投資をすることで高成長企業の振りをしているケースも多くあります。つまり、経営者と投資家の間で潜在成長性の認識にギャップがあるのです。ですから、投資家は経営者自身が考えているほど会社が成長するとは思っていないという前提に立ち、潤沢な手元資金を保有している意味を理解してもらう必要があります。以上3つのルールを念頭に入れることです。

①根拠があること

②成長が鈍化したら、それを素直に認めて株主還元を増やす約束をすること

③投資家があまりにも騒がしくなったら、それは成長が鈍化している徴候だと認める」

「株主の質が経営に大きく影響します。短期的な株主が多ければ、経営も短期的になり、研究開発費の削減などの利益調整を行うことが多くなるとの調査もあります。もちろん、わざわざグリーンメーラーやヘッジファンドに株主になってもらおうと思って経営をする経営者はいないはずです。例えば、株主還元で株主を引き寄せようとする日本企業が多いのですが、これは「株主還元キャンペーン」であり、スポーツクラブの入会割引キャンペーンと変わらないように思うのです。また株式分割も広く行われていますが、これはまさに株価にフォーカスを当てたマーケティングツールであり、株価への意識の高い株主を惹きつける可能性が高くなります。企業の価値と無関係な理由で株式を買う投資家は、企業の価値と無関係な理由で株式を売却するため、このような株主がいると、株価がビジネスの進捗と無関係に変動することになりかねないのです。株主の質は経営者のコントロールが効かないものではありません。経営の質と投資家へのコミュニケーションで決まるものなのです。経営者は株主が短期的だと嘆く前に、自分の経営を省みることが必要でしょう。結局、会社にふさわしい投資家しか株主にはなってくれません。パートナーのような長期株主を増やすには、長期的にキャッシュフローの最大化を目指す経営をし、長期的な経営戦略や経営指標の目標値などをコミュニケーションしていく必要があります。長期株主が増えれば短期的なノイズを軽減でき、番頭もどっしりと構えることができます。もちろん、番頭は自らが率先して、経営の質と投資家へのコミュニケーションを改善し、より多くのパートナーに株主になってもらうよう努力する必要があります。但し注意が必要なのは、これからの時代のパートナーが手ごわい存在であるということです。パートナーというと、かつての持ち合い時代のようにはいかないでしょう。投資家を本質的投資家、トレーダー、メカニカル投資家と分けた場合、パートナーとなりうるのは本質的投資家です。彼らの特徴は、保有銘柄が少なく、また持ち分比率が高いため、投資先への株主としてのコミットメントが高いことです。本質的投資家はモノ言う株主であり、持ち合い時代のような株主不在のパラダイスの下で経営することはできなくなります。とはいえ、見方を変えればトレーダーに翻弄されて短期主義の罠にはまるよりはるかに良いはずです。長期的に株式を保有する意図もなく短期の利益を狙う投機家と異なり、本質的投資家は、投資先が長期的に企業価値を創造するようにモノを言うのであることを考えると、よきアドバイザーとも言えるのです。モノは言うが、モノわかりがよいのも、彼らの特徴と言えます。彼らは企業に積極的に働きかけます。(エンゲージメントとも呼ばれる)が、企業は彼らが投資先に求めることを先んじて実践していれば、そういう働きかけを受けることはありません。もちろん、彼らは短期的な視点で経営者に何かを要求することもありません。長期的に株式を保有する意図がある以上、企業が長期的にキャッシュフローを高める経営をし、結果を出してさえいれば、何ら問題はないのです。彼らがモノを言うのは、投資先の経営方針に問題があったり、結果が出ていなかったりする場合に限られます。こうした関係が企業に規律を与えることになります。野放しになることはありません。モノ言う株主は手ごわい相手ではありますが、結果さえ出せていればモノ分かりのいい株主であり、パートナーとして長期株主になってくれるものです。こうした株主を引きつける努力を企業は行うべきなのです。」

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