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2012年12月13日 (木)

手島直樹「まだ「ファイナンス理論」を使いますか」(4)

「結論は、無駄な抵抗を止めることです。収益が悪化しても、そのまま正直に伝えればよいのです。会計数値をいじくり、利益調整をしてまで、高成長企業や安定企業のフリをする必要はありません。早かれ遅かれ、事実は明らかになるのです。それならば、事実を早く明らかにして、会社の新たな姿を投資家に判断してもらえ場よいでしょう。新たな姿が投資方針に合致する、別の投資家がいるはずです。短期主義の蔓延は、アナリストと短期投資家のお祭り騒ぎに経営者までも巻き込まれているだけなのです。アナリストは自分の収益予想が外れないことが目標であり、短期投資家は株価が短期的に上がればよい。どちらも企業経営にとってはノイズに過ぎない存在であり、彼らの意見に左右されるようでは会社がおかしくなるのは当然なのです。また皮肉なことに、アナリストと短期投資家に都合がよい経営をしていると、さらに短期投資家が集まってきます。彼らは、業績に少しでも悪い兆候があれば、一気に逃げていきます。お祭り騒ぎのパーティーには必ず終わりが来るのです。」

「多くの企業が、売上成長を経営目標に掲げます。たしかに売上成長は企業価値を創造するバリュードライバーのひとつであり、成長率が高ければ高いほど企業価値は高まるのが一般的です。一般的といったのは、ROICとWACCを下回る、もしくはROEが株主資本コストを下回るケースでは、成長により企業価値が破壊されることになるからです。成長のタイブによって企業価値に与える影響が異なることと、成長は時間の経過と共に鈍化することが言えます。

成長のタイプとしては、内部成長とM&Aによる(外部)成長があります。アップルの様に革新的な商品によって新たに市場を生み出したり、新たな顧客を惹きつけたりできれば、高い成長がそのまま高い企業価値の創造につながる可能性が高くなります。一方、改善のような革新性のない方法や、価格競争やプロモーションによってシェアを拡大しても、利益の大きな拡大は見込まれず、企業価値に与える影響は限定的です。大型買収による成長も同様です。実際のところは「高値づかみ」で企業価値を破壊するところも少なくありません。

当たり前の話ですが、会社の規模が大きくなればなるほど、高成長は困難になります。市場にもライフサイクルがあり、また競争も激しくなるため、高成長を永遠に続けることは不可能です。高成長をバリュードライバーとして企業価値を創造し続けることはできないのです。ですから成長が鈍化した場合、成長以外のバリュードライバーで企業価値を創造しなければなりません。そこで重要になるのはROIやROEといった資本効率性指標を改善することです。機関投資家はこの点を認識しており、成長性よりもROEを重視することを企業に求めています。資本効率性指標を改善することです。機関投資家はこの点を認識しており、成長性よりもROEを重視することを企業に求めています。資本効率性を重視することにより、成長を目的化し成り金型の大型買収によって成長を買うという行動も企業は取らなくなるはずです。」

「社長にはお金を生む仕事だけをしてほしいと私は考えています。ただし、IR活動は直接的には金を生むものではありませんが、金の生み方に関して株主や投資家から客観的な意見をもらえるよい機会だと考えています。もちろん、社長自らがIR活動を行う以上、IR部門は社長が時間を割くに値する株主や投資家を選別できなければなりません。IR担当者ですむような質問を社長にされては困るからです。貴重な時間を投資する以上、何よりも社長にとって学びがなければなりません。社長は会社にいる限り、なかなか他人から意見されることはありません。ですから、「ボス」、すなわち株主との意見交換は、経営上のヒントを得られるかもしれない貴重な機会なのです。ただしここで「ボス」にはいくらでも言いたいことや聞きたいことがあります。意見交換と言うからには、問題は社長に意見があるかどうかです。松井証券の松井道夫社長が、IPOの際に海外ロードショーで会った機関投資家による日本人経営者の印象とは、次のようなものだったそうです。

「日本の経営者の大部分はビジネスモデルが答えられない。企業のストーリーが語れない。日本の企業にはストーリーがない」

「ストーリーを語れる日本人経営者がいない。ほとんどの経営者は、単なる担当者になってしまっている」

社長が松井社長の指摘する程度の人材であれば、株主と会うたびに株が売られ、株価が下がることになります。社長の能力が欠けている状態では、株主との効果的なコミュニケーションを行い、経営に活かすことは不可能です。」

「創業経営者や創業者一族系の経営者は、ストーリーやメッセージに事欠きません。自分でゼロから会社を興したり、この世に生まれた時点で後を継ぐことが決まっていたりするため、ビジネスモデルを語ることができないということはあり得ないからです。そもそもIR活動や広報活動をIR部門や広報部門に任せ切りという社長は、大企業病にかかっていると思わなければなりません。どちらも社長の仕事なのです。IR担当者や広報担当者はあくまでメッセンジャーでしかなく、社長の志や魂の叫びを伝えることはできるはずもないのです。ですから、創業経営者のような社長であれば、IRにおけるコミュニケーション云々以前の安心感があります。社長と株主は、同じ船に乗っているのです。「この安心感により資本コストが下がる」ということであり、結果的に企業価値は上がることになります。」

「創業社長の圧倒的な存在感とこれまでの実績を真似することはなかなか難しいことですが、彼らのエッセンスだけでも取り入れることは可能です。彼らの特徴を一つ挙げれば、これまで利益を出し、現在も出しているため、「今後も利益を出して見せる」という言葉に説得力、信憑性がある、ということです。創業経営者のような実績がないのであれば、ビジネスモデル、簡単に言えば金の儲け方について考えに考え抜いて、自分の信念を自分の言葉で投資家や株主が納得できる形で説明するしかありません。そして説明の通りに実現していくのです。実現できなければ辞めればいいだけのことです。実現できない経営者が辞めれば株価は上がり、株主のためになります。これがまさにコミットメント経営なのです。具体的には以下のような内容を、投資家やアナリストに訴えればよいでしょう。何も目新しいことはありませんが、最後のコミットメントの有無が大きな差を生むはずです。

①げんざいはこうである

②将来はこうありたい

③そのために××の分野もしくは地域を攻める

④そのために必要な能力は××である

⑤その能力はこうして育てる

⑥できなかったら辞める

生命保険協会の調査によれば投資家は中期経営計画に関して「目標達成までのプロセス・戦略が明確でない」「ビジョンが抽象的で分かりにくい」という点の改善を求めていますが、これは経営者が真面目に考えていない証拠でもあります。とりあえず利益の目標数値を示せば文句は言われないだろう、という程度の中途半端な気持ちの表れではないでしょうか。」

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