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2013年1月 9日 (水)

あるIR担当者の雑感(98)~IR担当者がIR担当者を見つめる

私の勤め先の決算説明会では、知り合ったIR担当者を招待するようにしています。そして、できれば来ていただいた方の会社の説明会に出席させていただくようにしたいと思っています。未だ数社ですが、他社の説明会に出席させていただいたところ、大変勉強になりました。その理由をいくつかあげてみます。まず、鏡像効果とでもいうのでしょうか、ラカン派の精神分析で乳児が鏡に映った自分を自覚することで自己というものを認識するという有名な概念にちなんだ言い方をしましたが、自社の説明会に関わって準備や運営を行っているのを、他社の説明会で他社の担当者が動いているのを見ることで、改めて客観視するきっかけを得ることができたというのが第一点です。次に、日頃は説明する会社の側に座っているのに対して、出席者の席に座ることでアナリストや機関投資家の側に立って説明会を見ることができたことで、ここから見える説明会は説明者から見えるものと違うということが分かったことが第二点です。この第一点と第二点についてはIRコンサルや支援会社などのアドバイスやコンサルティングや説明会後の出席者に対するパーセプションスタディによって一部を代替することは可能です。

しかし、第三の点については私が、直接、他社の説明会に出席することではじめて可能となることではないかと思います。それはIR担当者として現実に説明会の準備や運営でそれなりの苦労をしていてはじめて分かる実感レベルのことです。100%というわけではありませんが、他社の説明会が行われているのを資料を目で追いながら観ていると、担当者や経営者の息遣いがライブで分かるので、おおよそ、担当者はどの点で苦労して、どこで工夫しているか、説明者である経営トップとの位置関係とか、裏方の動きがだいたい想像できてしまうというという点です。単に説明会資料を見ただけでは、そこまでは穿つことはできず、そういう視点にまで掘り下げて気が付いた点を参考に出来るということです。これは些細なノウハウの点から、例えば、このような時に担当者はどうしている、というようなことから、明確に言葉に出来ない心情レベルの実感によるところまであります。他社の担当者でも、このようなところで悩んでいるらしいということを、目前にすることができて共感することができるだけでなく、彼なりに苦労しているのを想像すると自分にとってのヒントになるわけです。そして、多分、これは現場で実際に業務に従事している者でないと分からないのではないかと思います。そして、このようなことは、その場ではたいしたことのないように見えますが、あとで今度は自分の会社の説明会を始めようとする時に大きな糧となっていることが分かります。そのときに、私個人としては、このIRの説明会の業務に対して畏れを実感しました。何か宗教っぽいですが。

そして、他社の担当者が説明会に出席して、私と同じように、そうではないかもしれませんが、担当者として、こちらの裏方を見抜いてしまうような目で見られていると思うと、正直おそろしくなります。ごまかしや手抜きなどしてしまえば、即座に見抜かれてしまうでしょう。

『建設業者』という大工や左官といった職人へのインタビューのなかで、あるウレタン吹きつけの職人が「現場に行って古い壁を剥がしてみると、当時の工事の様子が分かります」「いま自分が吹き付けたウレタンは、20年後か30年後、将来改修する職人が必ず見ます」「たとえ今は見えなくても、未来の職人に対してだけは恥ずかしくない仕事をしておきたい」といいます。これは、仕事に就く者のひとつの倫理であるとともに、同業者の厳しい目、これは同時代という横軸でも将来という縦軸で時間を切った時にも、強く意識されているのがすごく印象に残っています。これはIR担当者にも、言えることではないか。言えるような世界であってほしいと思っています。

いま、優秀IR表彰とか、ホームページやアニュアルレポートを評価するイベントがあっても、それを審査するのはIR協議会であったり証券会社が主催して、アナリストや投資家、あるいは学者やジャーナリストという、つくる側でない人々によるものです。これに対して、IR担当者同士の口コミで、あの会社の説明会は良い、とかそういうことがあってもいいのではないか。おそらく、担当者としては、そういう評価は胸に沁みるのではないか。そういうのがあった方が、商売半分?の表彰などよりも余程、IRの向上に資するのではないかと思ったりします。そのためには、IR担当者のつながりとかネットワークができていることが前提になって来るのでしょうが。単なる懇親だけなら、どうでもいいですが、情報交換とか切磋琢磨のような関係はあったらいいなと思います。

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