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2013年1月 9日 (水)

あるIR担当者の雑感(97)~法務部員の存在感の自己放棄?

昨年、あるセミナーを聞いてきました。講師は国内トップのビール会社の法務担当者でテーマは、内部取引規制、いわゆる役員や従業員が自社株を売買する際にインサイダー規制に抵触しないように対策を講じるというものでした。で、その講師の会社のとった対策とは、役員は任期中には一切自社株の売買は禁止、従業員は原則として従業員持株会を通じて購入する。何かの都合で、例えば子供の学費とか、で自社株を売りたいと言われてもできないので、これでは従業員の福利厚生にならないのが悩みというものでした。単純化すればそういうことになりますが、そういうことができるためには、内部取引規制の社内規程を整備し、役員にも従わせるためのオーソライズ、例えば取締役会での承認をえるとか、そのためには役員や関係者の根回しや説明等の手間がかかったでしょう。さらには、規程ができても、それが正しく運用されるためには、役職員に規程を浸透させ、自社株の売買を把握する、あるいは必ず事前に会社に届けさせることを徹底させなくてはなりません。それにも労力がかかったと思います。そこでの苦労やノウハウは、他社の担当者は知りたかったのではないかと思います。それで出来上がった体制は水も漏らさぬ、事故は起こらない体制です。

しかし、と中小企業の兼務担当者は思うのです。部分最適を追求して全体最適を見失っているのではないか。それよりも、法務担当者として自分の存在を否定している、というのか会社に対して貢献できる道をわざわざ自分で潰しているように、私には思えてなりませんでした。これは、私の個人的な考えなので異論も多いと思いますが、こういうことです。中小企業では、経営者が株主の立場を尊重することを身を持って示すということを進めて行かないと、投資家や株主の納得を得ていくことが難しくなってきています。投資家や株主の支持をえるということは、経営上必要なことで、これがあるとないとでは有利さが違ってきます。そのひとつの経営者の姿勢を表わす手段として、あるいはコーポレートガバナンスという点からも経営者が自社の株式をある程度身銭を切って所有させて、株主と共通の利害に立たせる。これは会社の経営を考える上で、必要なことです。まあ、メジャーな大企業でそんなものは不要だというなら、そこで議論は終わってしまうのでしょうが。たとえ、緊急の必要性は感じられない企業でも経営上有効なものであることは変わりありません。オーナー企業で経営者が大株主の会社は別ですが、そういう株式の分散が為されていない会社が上場すること自体が、そもそも自己矛盾ではあります。そういうときに、役員の自社株売買は一切禁止ということになると、経営上必要な施策を打てなくなるということです。しかも、この施策は違法な目的というよりは適切なガバナンスを目的としている、いうならば法に適うはずのことです。

そこで、どうすればいいか、後はケースバイケースで白黒をつけにくいグレーな状況のなかで形式的な要件をわきまえて、その時々に売買できるかどうか、その都度判断して行くほかありません。もし判断を間違えて、万が一当局の規制にひっかかれば、判断した者は会社に多大な損害を与えてしまうことになります。そのようなリスクを負って判断するのは、スペシャリストでしかできないでしょう。しかし、企業にとっては必要だし、価値のある判断のはずです。そういうリスクは経営リスクと考えてもよく、そのリスクを負って企業の経営を左右しかねない判断をするのが法務部が企業に対して貢献できるものではないかと、私は思います。

しかし、このセミナーでは、そういう貢献できる途を自ら閉ざしてしまっている。そういう経営リスクを負わなくてよいほど順風満帆な経営の企業なら別にいいのですが、リターンはそれに見合うリスクを伴うというのは投資の常識です。法務等の事務系、管理系の仕事はリスクを無くすことではなく、リスクを避けたり、リスクに伴う被害を最小限にとどめることで、そうでなければ、企業はリターンを得ることができなくなってしまうのではないかと思います。あえてリスクを求めるのは愚かですが、リスクを負わないことで、何がしかのリターンを逃している、と講師をしている担当者は考えないのか、ひいてはその上司は担当取締役でしょうから、経営の一翼として考えないのか、疑問を多く感じました。そのとき、官僚化という言葉を思い浮かべたりしました。

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