あるIR担当者の雑感(100)~IRのホームページを考える(2)
最初に遠回りに思われるかもしれませんが、原則論を考えて行きたいと思います。
なぜ、IRのホームページを作るのかということです。流行だから、他社もやっているから。それも大きな理由でしょう。こういう理由でホームページを作った企業の場合は、理由が理由ですから、目的も他社と同じようにページを作るということになって、それが同じようなホームページを作るということには一息です。取り立てて批判するつもりはありません。このような理由と、結果としてできたページとは論理的に整合しているわけです。逆に言うと、だから、原則を無視できないということです。理由や目的が明確であれば、その後で作られるホームページに結実すると言えます。ただし、今言ったことと矛盾するようですが、ホームページを作る前に、これをガチカヂに固めるほど突き詰めて考えることはないと思います。というのも、実際の作業を進めて行くと、思っていたことが実際上できないという壁に何度もぶつかり、また、作業を進めて行くうちに、それまで分らなかったホームページの新しい可能性─「こんなことも出来るんだ!」という発見─もあったりして、作業の中で、このことが何度も考え直され、揉まれて行くからです。だから、自然に固めすぎてしまうと、そういう時にフリーズしてしまって動きが取れなくなってしまうからです。しかし、事前に何も考えないで始めてしまったら、作業のプロセスのなかで、このような考え直しの契機も起こらないはずなので、事前に考えているということは必要です。
ここで、私がやっていったことをひとつのケースとして取り上げていきますが、これはあくまでもケースであって、モデルではないことを、ご承知おきください。私の勤め先でのホームページの場合、なぜホームページをつくるのかという理由として考えたのは次の3点です。
まず第1点目は、情報提供の対象の拡大です。なあんだ、と思われるでしょう。そういう一般的なことでも、一度は明確に打ち出しておいた方がいいのです。決算説明会を実施し、できる限り機関投資家を訪問し、取材には応じ、といったことを重ねても情報を提供できる人数はたかが知れています。また、株主あてには株主通信を制作し、送付していますが、その数も1,000人足らずです。それも、範囲が狭い中で限定されてしまっています。これに対して、インターネットは対象が無限定に近く、そのためより多くの人と繋がる可能性があります。ミーティングとか株主通信といった媒体とは異なるメディアで、いわば、別のルートを介して、それら以外の人との接点を開く可能性があると考えられるためです。かといって無制限に広げられるかといえばそうではなく、このことはどのような対象をターゲットして接点を広げていくかという大事なことを考えることに関連して行きます。これについては、後で改めて考えていきたいと思います。ここで、ひとつの話を、以前のIRのニッチ戦略のところで考えたように、私の勤め先は一般的な人々に名の知れたメジャーな企業ではなく、業種もB to Bに分類されるため、投資の対象として、私の勤め先を知るとか興味を持つ人というのは、かなり限定されて来るはずなのです。そういう人は100人の中に1人いればいい方で、砂漠の中から1粒の砂を探すようなことではないかと思います。説明会とか印刷媒体というのは、基本的に人と人との実体的関係(面前─実際に会って話をする)に準ずる関係で広がっていくので、情報の使わり方も一歩一歩という形でスピードも遅くなります。これに対して、インターネットの場合は、ネットワークというのが実体を伴わないというのか、AさんがBさんに紹介していって、それが次々にといったような順番だてていくような伝わり方ではなくて、情報の伝わり方は双方向で、拡散したり、順番を飛ばして思わぬところに飛んで行ってしまう傾向にあります。そのため、これまででは伝わらなかったところに企業のことが知られていく可能性があると思います。ただし、もともとがターゲットが限定されているので、情報の伝わり方の確実性は低下すると思います。というのは、人の紹介を介して情報が伝わっていく場合には、情報の伝える側、伝えられる側でそれぞれにセレクションが働き、その情報に興味を持ちそうな人が選ばれていく可能性が高いため、スピードは遅いでしょうが伝わり、広がる確度は高いでしょう。これに対して、インターネットでは、そのようなセレクションかせ働くことは期待できないので、空振りにおわることも多くなるでしょう。それゆえに、ターゲットを限定して、こちらで絞込み、伝えるべき情報を鮮明にしていく必要が生まれると思います。また、私の勤め先を投資の対象として興味を持つような人はマイナーな人でしょうが、そういう人は、おそらく既存の証券会社とか投資サービスとかメディア等の網からは隠れている可能性が高いと思われます。その一方で、その人自身は興味ある分野に対しての情報収集能力は高いは推測できます。そうでなければ、独自にマイナー企業に敢えて投資することはできないでしょう。その場合、インターネットに企業の情報が流れていれは、それをそのような人が何かの折に捕捉する可能性が出てきます。ここで興味ある見解をひとつ紹介しましょう。ベル投資研究所の鈴木さんという有名なアナリストが講演で仰っていたことです。企業でビジネスの実務経験を積んで、パソコンやインターネットに通じた中高年の人たちが定年や早期リタイヤで企業を退職し始めている。この世代は、ひと世代前と違ってインターネット等の情報機器を駆使できるようになって情報収集能力が格段にアップしているし、預金などは低金利であるのを身を持って知っているし、業務の中で企業どうしの付き合いも経験しているので会計数字にも明るく、投資に対して前向きである。そういう人たちは一般的に、老後に備えて資金の準備をしていたり、退職金が入ってきたりして比較的資金を持っている。今後、そういう人が、企業をどんどん退職して増えて来るだろう。しかるに、証券会社や金融機関は、そういう個人投資家に算入して来るであろうという人を把握していないということです。私に勤め先にとっては、この中の技術とか、ものづくりに明るい人というのは、明らかにターゲットとして一本釣りしたいと考えたくなります。その時にインターネットというは今までにない有効なメディアとして機能する可能性があると思います。ただし、鈴木さんが言っているように証券会社等の既存の機関が把握できていないということは、今までのやり方では掴まえにくいという推測が働きます。つまり、このような人々のアンテナに引っかかりやすい形のインターネット利用を考えていく必要があるということです。これは、ホームページを作る理由の第2点にも関連しています。今日は、長くなってしまったので、続きは明日にしたいと思います。
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