あるIR担当者の雑感(106)~IRのホームページを考える(8)
今日は、「今期の決算概要」という項目について考えてみます。これは、各社のページでは「業績ハイライト」とか「財務ハイライト」にあたるページです。これらのページは、一般的には売上とか利益とかの推移が過去5期くらいまで遡ったグラフが作成されていて、それが掲載されているという体裁になっていると思います。会社によって、利益率とか販管費とかグラフにする項目が多少異なりますが、売上と利益はどこの会社でも載せているようです。財務ハイライトは、総資産や純資産や負債などの推移が同じようにグラフになっているというものです。
これらを見ていて、私は素朴に思うのですが、これらは何のために掲載されているのでしょうか。ホームページの業者は、多分、こう言うことの専門家なので問うてみましたが、満足な答えは得られませんでした。英国IR協会のガイドラインも、載せられているのが望ましいとしていますが、その理由は明らかにされていません。分かりやすいとガイドラインに書かれていますが、何が分かるのが、分かりやすいということは、何かを分ろうとする際にそれが容易だということでしょうが、何が分かるのかハッキリしないのです。推移がよく見える、というのでしょうか。グラフというものは、変化率とか推移を比較して見るには、慥かに向いているでしょう。でも推移を見てどうなのですか。と、私は各社のホームページをつくった人たちに問うてみたいです。果たして、明確な意図なり目的を答えることができる人は、どれほどいるのか。あるいは、そういうページを評価している見る側の人たち、たとえばアナリストにも、これを何の目的で見ているのか、教えてほしいと思います。まさか、ないよりもあった方がマシだから、とか、そういうものだから、とかいう答えは返ってこないでしょうけれど。
そこで私なりに考えてみました。投資をするときに企業の決算数字を見る場合、そこから何を引き出してくるかです。端的に言えば、企業への投資はその企業が将来に向けて成長し、持っている資産価値を増大させていくからするわけです。そのほかに、企業が安定した経営を続け高い配当をすることでリターンを得るということもあると思います。それぞれの場合、そのベースとなるのは、今の状態はどうなのか、ということを客観的に知ることから始まります。そしてそれだけでは将来のことを推測できないのです。だから、そのためのスタートとして現在の状態は客観的な数字としてわかるが、その数字が企業にとってはどのような状態にあるのかを知ることが大切になってきます。つまり、今年の業績は、その企業にとって上がり調子なのか、下がり調子なのかということです。もう少し突っ込めば、企業自身はどのような自己評価をしているのか、ということです。そして、今期の業績が上がり調子か下がり調子かということは前期に比べて増加か減少かということで、もっとなら数年間の業績の推移を比較してみるのが分かりやすいということになります。そこで、売上高の推移をグラフにしてみれば変化の推移をパッと見てわかるというものでしょう。これは、私の想像ですが、業績ハイライトにグラフを載せている理由の一つは、そのようなものではないか。とすれば、それだけでは中途半端ではないかと、私は思います。もしかしたら、これだけでは物足りないと思う投資家も結構いるのではないか。それとも、ホームページなんてこのようなものと、そもそも期待されていないのか。そのような理由であるならば、単に推移を見るだけではなくて、どうしてこのような業績になったのか、市場環境とか、その環境の中でどのような企業努力をしてその効果がどうだったのか、その業績に対して企業はどのような自己評価をしているのか、それらの説明と一緒に見ることによって、はじめてグラフの利点が活かされて、投資家の理解も進むのではないかと思います。
そして、さらに株式投資は本来企業の将来の成長にかけるものといえます。そうだとしたら、企業の業績とか現在の状態だけに限らず、これから将来どうしていこうとしているのかをもっと知りたいのではないでしょうか。その説明や資料が少しでも入っていれば、ここで述べたことが一覧でひとつのページでコンパクトに把握することができるというわけです。そして、その説明の前提として、市場や競合あるいはビジネスモデル、あるいは強みやリスク等の説明がリンクを伝って、疑問を感じたことをすぐに解決できるということになるわけです。
そして、さらに、このような情報は通常の業績ハイライトでは、直近の業績に関する過去の推移のグラフを載せているだけですが、説明を加えているようなら、環境や企業の打ち手の推移を知ることができる方がいいに決まっていますから、直近だけでなく、過去の説明も一緒に掲載し、直近のものと読み比べをすることによって、企業の動きの推移や経緯をより理解できると思います。
業績の経過の説明というと決算短信の定性的情報という文章による説明のようですが、基本的には、私は、あれをベースにしてリンク機能を活用して参照しやすくすることで、理解しやすいホームページ向けの文章を作ることを試みてもいいのではないかと思っています。以前にも言いましたように簡潔でカット等を多用して一目で分かるというページが推奨されていますが、知りたいという目的をもって訪れる人にパット見だけで分かる程度の情報しか出さないで出し惜しみするならば、面白い、あるいは興味をそそるような工夫をして濃い情報を送り届ける努力をする方が、訪問者の満足度をアップさせることができるのではないか。ページの訪問者が多くないページならば、その訪問者のうち、どれだけを繋ぎ留めることができるかに工夫をすべきではないかと思います。その時に、他社のページとは明らかに異質であるという印象を与えることができれば、それはサプライズで、取敢えず印象に残ることでしょうし、ただし、そこで、そういうページが会社の熱意の現われであるということが理解されていなければ、うっとおしいだけ、ということになりかねないかもしれません。
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