あるIR担当者の雑感(104)~IRのホームページを考える(6)
今日は、個別の項目に行く前に、具体的なホームページの作り方について、どのようにページを作っていくかについて、少し細かいところも含めて全体に共通する方針について書いて行きたいと思います。(今回の一連の書き込みは寄り道が多いですね。)
ここでは、一般的な企業のホームページの常識と考えられていることとから外れたところがあるため、そういうものに対する多少の疑問も交えて考え行きたいと思います。今、ここで一般的な常識と書きましたが、形に残っていて権威もあると参照しやすいのが、英国IR協会が毎年作成するIRベストプラクティス・ガイドラインです。とりたてて、権威に反抗するような気は全くありませんし、ここで掲げられている主要方針は納得できるもので、対決とかそういうことではなくて、その方針に沿ってプラクティスをきちんと考えているか、というところで杜撰と思われる節が見られるのです。これは、私は実際にページを制作するようになって分ったことで、多分、このガイドラインを作っている人は、学者やマネージャーや投資家なのだろうから、そういうことは分らないのではないかと思います。それだけに、「プラクティス」とうたうことには疑問を感じます。それよりも「アイディアル」といった方が向いているのでしないか、と。余談が過ぎました。
まず、説明は簡潔でわかりやすく。というのが常識的になっているようです。私は、それらには敢えて異を唱えたり、無視するつもりはありませんし、結果的にそうなっているのはいいと思いますが、優先すべきことではないとして、ページを作りました。それよりも優先させたのは情報の量と質です。ただし、ホームページのもともとの特徴として情報を多量に高い密度で提供することには向いていないことは分っています。だから、できるだけ詰め込むことにしました。それは、錯綜した様々な情報を訪れた人が主体的に参加して解釈ということをしていくためには、どうしても一定以上の情報が必要で、その場合には、多い方がいいということからです。
そして、私の勤め先の会社の置かれている環境からも、それが適当と考えました。というのも、以前から何度も書いているように市場では地味な企業です。もともとの知名度もないので、冷やかしでページを訪問するということは想定しにくく、ホームページを訪問する人は、最初からこの企業に興味を持って、知りたいと、情報を得ようという目的をある程度持って訪問して来るケースが多いのではないかと思われました。そういう訪問者が期待するのは、ホームページから情報を得るということです。だから、その期待に応えるためには、情報の量は多い方がいいということに異論はないと思います。まして、前回もいいましたように、このページの対象は機関投資家も含めた投資家全般で、個人投資家を初心者と決めつけて見下すような姿勢をとらないと方針立てているわけですから、多少のハードルは高くても、その結果、得るものが大きければそちらを優先するというのが、ここでの基本方針です。実際に、ある機関投資家のアナリストとミーティングをした時に、初めてのミーティングだったのですが、そのアナリストは分厚い紙の束をもってきました。何かと思っていたら、事前に御社のことを予習しようと思ってホームページを見て、フリントアウトしたらこんなになってしまったと話してくれました。そして、その話しぶりは決して文句を言うような感じではなく、好感を持ってくれているような感じでした。事実、その後のミーティングは基本的にことは、ホームページで見たので、最初からかなり突っ込んだ質疑応答のやり取りを行い、アナリストも大変満足してくれているようでした。
次の常識として、図やグラフをもちいて分かりやすく、見やすいものがいいというものですが、これについても、ビジュアルなものは一見ではイメージを抱きやすいところが利点で、言葉で説明すると諄く分かりにくいには、一瞬でわかるので便利ではあります。しかし、例えば、グラフは比較や推移や変化率を見るときには分かりやすいという利点はあります。しかし、見せ方によって恣意的になってしまう可能性が高い。また、図は分かりやすいことは確かですが、言葉で言い切ることによる確度高い情報には確度という点では及びません。それを考えれば、あくまで補助的であることにとどまるべきと考えます。これも、情報を得ようとするニーズに応えるため、曖昧な情報で答えることは企業の誠意をむしろ疑われることになると考えるためです。
そして、ページの見易さとして目指すページに手間なく行けることが良いという常識。ある学者は3クリック以内で目指すページに辿り着くべきといっています。しかし、企業のことを知りたいと、初めてホームページを訪れた人が、その企業のことを知らないのに、これを知りたいと特定することができるのでしょうか。それが大きな疑問です。そういう人は目指す具体的なページはそもそもないのではないか。それなのに、すぐに辿り着けるという努力をしても無駄な気がします。また、ある程度企業のことを知っていて具体的にこのページに行きたいと目的を持っている人は、何度もページを訪問している人でしょうからページのことは、ある程度分っていて、自分で目指すページに辿り着いてしまうのではないか。この場合には、初めて訪れた人は、むしろページを見ていて思わぬ面白いところを見つけてもらって、驚いてもらうとか、自分で会社の魅力を見つけたような気になって企業への興味を引き出すような工夫、つまり、ページを面白がってもらう工夫をする方を優先させるべきではないかと考えました。その大きな要素として、ホームページ迷子になったり、寄り道してもらうようなつくりです。これは、先に述べた常識と相反するものです。前にも、何度も書きましたようにホームページの特性として情報を錯綜させた混沌状態を作りだすことができわけですから。それをスッキリ整理してしまうことは、折角の特性を殺してしまうことになってしまいます。だから、むしろ、ページの中で時間をかけてもらえるような努力をすることが本来のホームページに叶ったものではないかと考えられるからです。その点では、英国IR協会のガイドラインは、そもそもホームページの特徴とはどういうものかという考察が説明されていませんから、考えていないのか(それははっきり言って手抜きです)、些細なことでは原則を無視しているか(それも手抜きです)どちらかでしょうね。ただし、これは私の勤め先のような環境にある企業だから言えることであって、全ての企業に共通して言えることではありません。
これに付随して、ページの現在位置を明示するために「パンくずリスト」を推奨されていますが、これは上記のようなルートを特定しているからこそ言えることであって、原則を考えているか疑わしい。というのも、様々なリンクを通じて、あるページに行くことができる場合、そのページに行くための経路が一つではないのです。それなのに、パンくずリストとして”トップページ>●●ページ>”という表示をいくつも付けることか果たして分かりやすいのか。今回、作成したホームページでは、あるページにトップから行く経路は10通り以上ありました。多分、英国IR協会はそういうことを最初から想定していなかったのではないかと思います。
ここまで、細かいところもありましたが、説明を読んだ方は、私の勤め先がホームページを作っているときに、ある程度ハードルが高くなるのを覚悟しているということを、薄々ご理解いただけたのではないかと思います。これは、もともと私の勤め先がマニア向けの企業であることを逆手にとったものとも言えます。訪れるのが少数で限定されることを覚悟して、そういう人に応えるものに、期待を上回ってサプライズ的にページに特化させていこうという作り方を志向しています。むしろ、そういう点で、あの会社のページはユニークだという評判でもたてば、あわよくば…という期待もあります。そういう点で、一般受けということは当初から想定していません。むしろ、そうならないように心掛けていると言った方が当たっています。
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