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2013年4月21日 (日)

宮川壽夫「配当政策とコーポレート・ガバナンス~株主所有権の限界」(2)

筆者は実務感覚として、これらの議論に対する疑問をあげる。一つ目の疑問は、果たして経営者はそれほど単純に自らの私的利益ばかり追い求めているのだろうかというものである。株主による規律のみではなく、かつての日本企業には何らかの自立や牽制といったものが存在していたのではないだろうか。別個の経済主体だからといってそもそも株主と経営者の立場を対等、同列に扱う前提にも疑問が残る。株主と経営者は仕組みの中で役割が分かれているが、その役割に求められる行動や能力は異なるように思う。

二つ目の疑問は、エージェンシー関係は、コストを発生されせる一方で何らかの効果を生むのではないかというものである。フリーキャッシュフロー仮説は、企業が必要以上に手元資金を保有してしまうと経営者がこれを私的利益に費消してしまい、企業価値の毀損を招いてしまうということを前提にしている。しかし、この主張は、結局のところプリンシパルの利益最大化のためにエージェントの裁量を極力奪うという帰結しか生まない。筆者にはエージェンシー関係の負の効果ばかりが強調されているように思えるのである。そもそも人は何故人はコストのかかるエージェンシー関係をわざわざ締結するのだろうか。プリンシパルとエージェントが結合することによって生じる正の効果も存在する筈である。エージェンシーコストの発生を犠牲にしつつも株主が特定の経営者にエージェントとして経営を委託する動機という問題はこれまでの実証研究においてあまり使われてこなかった。仮に株主と経営者の役割が単純な仕組みとして分かれているとして、両者の関係には少なくとも分業によるリスクシェアリングの効果を認めることができるだろう。エージェンシー関係を締結することのそもそもの動機に着目することが有効であると考える。

三つ目の疑問は、現代の複雑な企業経営においてエージェンシー問題がそのまま応用できるのかというものである。株式会社の運営が巨額な資金調達を可能にした資本家から巨大な資産をコントロール下に置く経営者の行動に委ねられることになったということから、資本依存から経営者依存の流れを説明したが、もうひとつの問題は経営者のコントロール下に置かれている資産の性質である。技術の高度化が進んだ現代の企業においては物的資産より人的資産すなわち経営者の能力や情報、従業員の技術力や知識、ノウハウ、ネットワーク等の企業の競争力となっていることが多い。しかも、これらの人的資産は相互依存しており、切り離して企業価値を拡大するためには人的資産による努力インセンティブが必要であり、さらには人的資産の価値を客観的に評価することは困難である。このような複雑な経営を株主が正確にモニタリングすること自体が困難である。さらに経営者の機会主義的行動ばかりに焦点を当てたモニタリングの強化は人的資産のインセンティブを低下させてしまい、必ずしも企業価値拡大に直結しない可能性もある。

 

本書の実証研究を通して問いかけたいことは、株主はどこまで強い支配力を行使することが合理的なのかという難題にある。この問いに対してディジットな解答が出たわけではないが、次のような意義をあげる。第一の意義は、エージェンシー関係の負の側面(エージェンシーコスト)を抑制する手段としての配当という一面的な従来の配当観から、エージェンシー関係の便益面(結合効果)をも維持・促進する手段としての配当という両義的な配当観(すなわたコストと便益の双方の考慮)に基づくことで企業行動のより現実的な分析を可能にしたことである。第二に、エージェンシー関係を締結することの動機付けの背景を所有権理論に求め、株主の所有権行使に馴染まないケースが存在することを実証的に明らかにしたことである。第三に、安定配当の合理性に対して科学的根拠を提示したことである。第四に、配当政策を単に株主の効用を満たす還元策であるという側面ではなく他の財務的意思決定と深く関与する企業の総合的意思決定として捉え、企業の財務的特性や事業特性との関連に着目した点である。最後に、大きな結論として株主の支配権を強化することが必ずしも合理的ではないとの考え方を科学的根拠として示したことに意義がある。そのために経営者の経営能力や企業特化した特殊性資産という概念を持ち出し、企業の人的資産が配当政策とコーポレート・ガバナンスに与える影響を実証した。企業の行動は理論整合的で一貫性を持つべきである。筆者はそのような行動を示すことが市場からの信頼を得ると考えている。

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