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2013年4月24日 (水)

あるIR担当者の雑感(108)~IRツールとしての決算短信

会社によってIR担当者は関係していないケースもあるかもしれませんが、決算短信は決算説明会でもアナリストや機関投資家とのミーティングでも大事な資料です。そして、会社のホームページやその他のデータベースになっているウェブサイトで閲覧できるため、会社のことを知りたいと思う投資家が真っ先に見る資料です。おそらく決算説明会資料などよりも閲覧される回数が多いものではないかと思います。その意味で、IRにとって最も大切な文書でありながら、実態としては、殆どの場合に経理が担当部署となって経理の責任のもとに作成されることから、IR担当者は全く関与しないか、関与しても部分的な範囲にとどまるのではないかと思います。だから、IR担当者の決算短信そのものに対する意識は、それほど強くないように見えます。どちらかと言えば、説明会資料は一生懸命作成するのに対して、決算短信は説明会で配布しなければならないので、配布しているだけという認識が強いのではないか思います。

しかし、あらためて決算短信を読んでみると、会社を知るために必要な情報が網羅されていて、実によくできた形式の文書であることが分かります。これをIR担当者が活用しないなんてもったいないです。活用したければ、その作成に積極的に関与してIRの要素を入れ込むべく努力していくことになるでしょう。

IR担当者が積極的に関与できるのは、決算短信の1ページ目であるサマリーをめくって、目次の次に来る定性的情報(文章による説明)のページです。そのあと後半の財務諸表や注記のページは経理本来の仕事で、ここは経理しかできませんから。前半の定性的情報の項目を並べて見てみると、

1.経営成績

(1)経営成績に関する分析 

a.当期の経営成績 

b.次期の見通し 

(2)財務状態に関する分析

(3)利益配分に関する基本方針及び当期・次期の配当

(4)事業等のリスク

2.企業集団の概況

3.経営方針

(1)会社の経営の基本方針

(2)目標とする経営指標

(3)中長期的な会社の経営戦略

(4)今後の対処すべき課題

どうです。これだけの項目が揃っていれば、会社について投資先として検討する際に、最低限必要なことは網羅されているでしょう。これを企業が上手く活用して、読む人に自社のことを理解してもらい、あわよくば投資したくなるようなメッセージを込めることも可能と思います。企業によってこの部分のボリュームがまったく違います。後半の財務諸表が規格化が進んでいるため、どの企業でも費やすページ数が同程度なのと対照的です。分量が多いから良いとは即断できませんが、この前半のページ数が多い企業はだいたいIRに熱心な企業と見て差し支えない。少なくとも、多くのページを費やして何事かの内容を載せるというのは労力を要するし、説明すべき、説明したい対象がある故ですから。

私の勤め先でも、定性的情報の記述に10ページを費やしていたことがありました。それなりに内容を充実させたつもりでしたが、その時には機関投資家とのミーティングの際などは、ファンドマネージャーが事前の下調べのためにネットで短信を閲覧して、その分量に驚くとともに、そこでひと通りのことが説明されていたので、ミーティングでは最初から突っ込んだ質疑応答が出来て、短時間で充実したミーティングができました。その時、一様にファンドマネージャーは、好感を持ってくれたようでした。その後、いろいろあって簡素な形態の決算短信に戻りましたが。

IR業界の常識でいえば、決算短信は制度的開示に位置付けられて、財務情報を開示するために制度化されている、言わば義務のようなものと位置付けられているようです。しかし、この定性的情報のラインアップをみてみれば、企業が独自に作成しているアニュアルレポート(これはIR担当部署で作っているところが多いと思います)の項目と重なるところが多いのではないかと思います。としたら、決算短信を制度的開示として位置付け、財務情報の開示という枠に止めてしまうのではなくて、投資判断の資料となる情報を積極的に発信できるツールとして活用することも可能ではないか、と思います。要は作成する企業の意欲と、全体を管理している証券取引所のやる気の問題です。

上場企業だけでなく証券取引所にもやる気云々を言ったのは、決算短信の使い勝手を証券取引所の側でも投資家フレンドリーにしていくことを本気で取り組んでいるように見えないことです。証券取引所は、決算短信を各企業に作成させ、ネット上で公開しているのはいいのですが、そのシステムが投資家にとって使いやすいものかということです。これは、単に決算短信を見るというにとどまらず、投資判断をするために決算短信を利用するという視点で、システムを作ろうとしたかということです。例えば、投資判断のために投資家がある企業の決算短信を見るという場合は、その企業単独で見るということもあるでしょうが、初めての企業の場合には、他の企業と比較しながら見るという場合もあります。また、投資先を探すのに決算短信を片っ端から見ていくということもあると思います。そういう時に、短信がアップされているネット上の短信の検索機能が大事になってくるはずです。また、複数の企業を比較しながら見たいということにもシステムとして対応されていません。かりに3社を比較してみたい場合には、3社それぞれの決算短信を探して、別々のウィンドウをあけて、ひとつひとつ見比べるという作業することになりますが、面倒くさいです。そういう時に、それぞれの短信のデータから必要なデータ、例えば売上高と営業利益だけをピックアップして一覧で3社比較できる、なんてことは検討もされていないのではないか、そこに投資家のことを本気で考えているとは思えないのです。証券取引所に関しては。

前置きが長くなりましたが、決算短信について具体的に考えていきたいと思います。

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