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2013年5月16日 (木)

あるIR担当者の雑感(118)~IRツールとしての決算短信(11)~「中期的な会社の経営戦略」

最後に核心部に入ります。おそらくファンダメンタルで中長期の投資スタイルをとる投資家の人にとっては、この項目が核心部で、一番知りたいものなのではないかと思います。ここまで、この経営方針という大項目のストーリーの流れを、何回も確認してきました。このストーリーの流れの大きな方向性としては、抽象的な理念から徐々に具体的で現実的なプランに展開してきたという流れだと思います。実際のところ、読む側に立てば、そのような流れで具体化していくと興味も引っ張られるし、分かり易いと思います。

これを実際に書く側から考えていくと、これまでの検討の順番では抽象的な理念→具体的なプラスとだんだん段階を落としていくような順番で検討してきましたが、この項目を書いていく場合には、逆の順番で書くことも出来ると思います。むしろ、逆の具体的な戦略をまとめて大きな方向性を出して、それを抽象化して方針にしていくという作業の方が、現実を後追いするような会社の場合は書きやすいと思います。これは、実践的な戦略を最重視して方針は後からついてくるような会社の場合です。あとは、もともと方針のようなことを意識して考えず、戦略レベルでとまって実践的な議論に終始しているような会社です。前々回のところIRは企業のアイデンテティを構築する思想のような作業だなどと大風呂敷を拡げましたが、実際そのようなことを意識して、大上段に考究しても、まとまることは難しいと思います。しかし、この方向なら逆に具体的な戦略を煮詰めて行って蒸留していく作業を続けることで方針を浮かび上がらせることも可能で、その方が作業しやすいのかもしれません。何度も書いているようですが、これは私がこの項目の理念として考えてきていることで、実際の決算短信では、このようなことを考慮して一貫性をもってストーリーの流れとして書いているケースは見られません。

話はここで脱線しますが、これまで数回にわたって決算短信を、IR担当者がIRの視点で書くということで考えてきましたが、決算短信を作成する際の基本的な指針である証券取引所のマニュアルには一切触れてきませんでした。それは、知らなかったのではなくて、参照してしまうと、ここに書いてきたことが瓦解してしまうからです。証券取引所のマニュアルには決算短信の理念のようなことは書かれていません。あくまでも形式的に、この形式を踏まえるということ、あとは場合によって企業で選択できるとは書かれていますが、それぞれの短信の項目が何を伝えるとか、そもそも短信にはどういう存在価値があるとか、投資家は何を短信に求めているとか、そういうことを考えられてはいないようです。だから、あえて、マニュアルは無視することにしました。

さて、話をもとに戻します。では実際の決算短信を見てみると、会社によっては中期経営計画をそのままここに持ってきているケースなどもあります。これは中期的な経営戦略で、実行されているものですから、当然のことです。しかし、経営計画のパワーポイントの説明資料がそのまま引用されたような施策項目が列挙されて全体目標が書かれているようなものが結構多いのです。この場合、ひとつひとつの施策が書かれているのはいいのですが、最終的にその施策が為されることによって会社がどのようになっていくのかが分からないのです。その最終的な姿が説明されているケースもありますが、中抜けというのか、施策と姿の関係が見えないのです。だから、施策が全部うまく成功した場合はいいのですが、一部上手く行かなかった時はどうなるのかというのを想像しにくいのです。これなど、会社の将来に対して投資を考えようという投資家にとっても不親切に映るのではないでしょうか。また、そもそもパワーポイントの資料というのは口頭での説明を補完するものとして在るものですから、単に読んだだけで理解しなければならない短信にそのまま転記するのでは、当然足りなくなるはずです。そこを踏まえてストーリーとして説明できていない会社は多く見られます。

一方具体的な施策が説明されず、中期戦略によってどのような会社の姿を目指すかだけを説明しているケースもありますが、その場合前の項目である指標との関係で、その指標数値をどのように高めていくかが分からないので経営戦略の中身をはかれないので、投資家からみれば物足りないということになるのではないでしょうか。

また、これは理念として決算短信の、私の思う理想の姿として考えていることですが、長期戦略を説明するのはいいことなのですが、戦略はただ説明するためにあるのではなくて、実行し成果を上げるためにあるわけです。そして、戦略として説明の俎上に上がっている時点で、企業の側ではすでに実行に着手して着々と進めているのです。投資家としては、その戦略の内容、つまり、何をどのようにするのかは説明されて分っているとしても、現時点でそれがどの程度進んでいるのかという進捗状況も知りたいと思います。ところが、そのことを説明しているケースはありません。だからこそ、ここで進捗状況を説明する。そうなると、戦略の修正なども当然行われるはずなので、そういうこともフォローして説明していれば、会社の真剣度が投資家に理解されやすくなるのではないかと思います。

また、文章全体の一貫性というのか、一種の円環構造のような構造になっていて、戦略上のそれぞれの施策を理解するためには、事業の特徴や強み、リスク、市場環境やライバルの動向を理解しておくことがその助けとなってきます。そのためには、以前に考察した企業集団の状況などの他の項目に目を通しておくと理解が進みます。

こうしてみると、決算短信という文書は、ある面ではそれだけで完結しているミクロコスモスのようなものと言えるかもしれません。

これで決算短信の定性的情報をIRで考えるシリーズは一応終わります。

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